NHKスペシャル

私は家族を殺した “介護殺人”当事者たちの告白

いま、介護を苦に、家族を殺害する事件が相次いでいる。4月には、82歳の夫が認知症の79歳の妻を殺害した事件が起きた。こうした、いわゆる“老老介護”のケースに加え、介護を担っていた娘や息子が親を殺害する事件も後を絶たない。
こうした“介護殺人”は、NHKの調べでは、未遂も含め過去6年間で少なくとも138件発生していた。なぜ、一線を越えてしまったのか。防ぐ事はできなかったのか。私たちは今回、受刑中や執行猶予中の、いわば“加害者”11人から直接話を聞くことができた。意外にも、多く人が介護サービスを利用していた。外からは“孤立”しているようには見えなくても、精神的に追い詰められていく実態があった。また、介護を始めてから1年以内に殺害に至る事件が頻発していた。介護をきっかけに離職せざるを得なくなるなど、生活の激変にさらされるためだ。
介護を担う人が550万人を超える大介護時代。悲劇を防ぐ手がかりを探る。

放送を終えて

なぜ“一線”を越えてしまったのか。介護殺人をしてしまった人と、踏みとどまった人との“境界線”はどこにあるのか。取材は、その“線”を探す日々でした。しかし放送を終えたいまも、線がどこにあるのか分からないというのが、実感です。
人の命を奪うことは、決して許されることではありません。ただ、取材をすればするほど、介護の当事者になったとき、自分は追い詰められずに介護を続けられるのか、自信がなくなっていきました。家族の介護は、ある日突然始まります。その時、自分ならどうするのか。簡単には答えの出ない重い問いを、取材を通じて当事者から投げかけられたと感じました。
いま、番組のホームページには続々とご意見が寄せられています。今も家族の介護に直面している方々から「自分も追い詰められている」という悲鳴のような叫びが、鳴り止みません。ひとつひとつの深刻な現実に、言葉を失います。
介護殺人の当事者となった人々は、自分たちのような事件を繰り返してほしくないと、誰にも語れなかった胸の内をカメラの前で明かしました。その思いに応えるべく、今後も取材を続けたいと思います。

ディレクター 丸岡裕幸