NHKスペシャル

終(つい)の住処(すみか)はどこに 老人漂流社会

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『歳をとることは罪なのか――』
今、高齢者が自らの意志で「死に場所」すら決められない現実が広がっている。
ひとり暮らしで体調を壊し、自宅にいられなくなり、病院や介護施設も満床で入れない・・・「死に場所」なき高齢者は、短期入所できるタイプの一時的に高齢者を預かってくれる施設を数か月おきに漂流し続けなければならない。
「歳をとり、周囲に迷惑をかけるだけの存在になりたくない…」 施設を転々とする高齢者は同じようにつぶやき、そしてじっと耐え続けている。
超高齢社会を迎え、ひとり暮らしの高齢者(単身世帯)は、今年500万人を突破。「住まい」を追われ、“死に場所”を求めて漂流する高齢者があふれ出す異常事態が、すでに起き始めている。
ひとりで暮らせなくなった高齢者が殺到している場所のひとつがNPOが運営する通称「無料低額宿泊所」。かつてホームレスの臨時の保護施設だった無料低額宿泊所に、自治体から相次いで高齢者が斡旋されてくる事態が広がっているのだ。しかし、こうした民間の施設は「認知症」を患うといられなくなる。多くは、認知症を一時的に受け入れてくれる精神科病院へ移送。
症状が治まれば退院するが、その先も、病院→無届け施設→病院・・・と自らの意志とは無関係に延々と漂流が続いていく。
ささいなきっかけで漂流が始まり、自宅へ帰ることなく施設を転々とし続ける「老人漂流社会」に迫り、誰しもが他人事ではない老後の現実を描き出す。さらに国や自治体で始まった単身高齢者の受け皿作りについて検証する。その上で、高齢者が「尊厳」と「希望」を持って生きられる社会をどう実現できるのか、専門家の提言も交えて考えていく。

【関連放送:老人漂流社会】
終(つい)の住処(すみか)はどこに
“老後破産”の現実
親子共倒れを防げ

放送を終えて

放送を終えた今も、いえ、放送中からメールや電話など非常にたくさんの反響が届きました。
「他人事(ひとごと)とは思えない。老後を迎えるまでに何かできるのか・・・」
「歳をとることが、不安だらけになった」
誰しもが自らの老後を憂い、このまま歳を重ねていくことに不安を拭えないと訴えていました。
今回、番組で取材させていただいた高齢者の方は、身寄りもなく、年金だけが頼りという市民です。「周囲に迷惑をかけたくない」と、不安を訴えることもせずに、自らの老後を受け入れています。そうした「声なき高齢者たち」が民間の施設や宿泊所を何か所も転々としなければならない状況が生まれているのです。
運送業を営み、朝から晩まで汗水垂らして働き続けたという80代の男性。
水道工事など職人仕事を50年近くも続け、5人家族の暮らしを守り続けたという80代の男性。番組で登場した人たちは、ごく当たり前の人生を送ってきた人たちばかりです。
「日本社会を支えてきた市民が老後に安住の場さえ持てず“お荷物”扱いとも言えるような暮らしぶりにおかれている・・・」
その現象をキャッチし、自らも目を背けてきたこの問題と対じしようという思いが、私たちディレクター陣の取材の原動力となりました。
かくいう私(ディレクター)は31歳独身。遠く故郷にいる両親も年老いてきています。もし私が病気で働けなくなったら、将来どんな老後を過ごすことになるだろう・・・「老人漂流社会」は私自身にとっても遠い話ではないと痛感しています。
将来、1人暮らしの高齢者はますます増え、年金制度もこの先、どうなっていくのか、みえていません。
今回の番組を、より多くの方々が自分のこととしてご覧頂いたことをうれしく思うと同時に、どうすれば「老人漂流社会」を変えていけるのか、具体的な解決策を見いだしていかなくてはならない、そう決意を新たにしています。

ディレクター 原拓也