NHKスペシャル

原発事故調 最終報告 ~解明された謎 残された課題~

世界最悪レベルの放射能汚染を引き起こし、今なお多くの人々に避難生活を強いている福島第一原発事故。
事故後、政府と国会そして民間による3つの原発事故調査が始まったが、7月23日の政府原発事故調の最終報告をもって、全ての調査報告が出そろった。
番組では3つの事故調の代表が、初めてひとつのテーブルを囲み、明らかになった原発事故の真相や、残された課題について徹底議論する。

畑村 洋太郎 (政府事故調・委員長 東大名誉教授)
黒川  清  (国会事故調・委員長 政策研究大学院大学 教授)
北澤 宏一  (民間事故調・委員長 科学技術振興機構顧問)
柳田 邦男  (政府事故調・委員 作家)

放送を終えて

「なぜ事故は起きたのか」「食い止めることは出来なかったのか」。
長く原子力取材の一線に身を置いてきた者として、反省の意を込め、絶対に突き止めなければならない問いだと自分に言い聞かせてきました。事故から1年5か月、その答えにどこまで近づくことができたのか。取材をすればするほど、その答えから遠のいていく自分がいる気がしてなりません。
その意を強くしたのは、今回の番組直前に放送した、NHKスペシャル「メルトダウン 連鎖の真相」の取材を通して、自分がどれほど事故の本質に迫れていないかを思い知らされたことでした。東京電力はもとより、他の電力会社、メーカー、原子力の専門家など、多くの関係者を取材していく中で、浮かび上がってくる数々の疑問。その疑問と、これまでに明らかにされている事実関係を付き合わせていくと、例えば番組で取り上げたような、安全上重要な弁を開けたい時に開けることが出来なかった真の理由にたどり着く。
大量の放射性物質をまき散らし、多くの人々の人生を一変させ、社会、経済に深刻な影響を与えた原発事故にも関わらず、未だ事故原因のほんの一端にしか触れていないのではないか、本当にそう思わずにはいられません。
今回、政府、国会、民間の事故調のトップ3人に集まって頂き、それぞれの立場から事故の原因、背景、今後の課題などについて語って頂きました。出演者の数に対して、放送時間が短く、物足りなさを感じた方も多かったかもしれません。それでも、真摯に事故と向き合い、被害者を思い、事故の真相に迫ろうとした関係者の生のことばには重いものがありました。いま危惧するのは、各種の事故調査が一区切りし、あたかも福島の事故を分かったかのように振る舞い始めることです。事故は決して終わっていません。「謙虚に事故と向き合う」、すべての原子力関係者に言いたいことばです。

科学文化部 根元良弘