NHKスペシャル

職場を襲う "新型うつ"

今、企業にとってうつ病を中心としたメンタルヘルスの問題は緊急の課題となっている。特に最近、大きな注目を集めているのが「現代型うつ」とも呼ばれる、新しいタイプのうつだ。現代型うつは、若者に多いとされ、従来型のうつ病と同様、不眠や気分の落ち込みなどの症状を呈する一方、常にうつ症状に陥っているわけではないのが特徴だ。職場を離れると気分が回復し、趣味や旅行など好きなことには活動的になり、うつになった原因は自分ではなく、職場など他人にあると考える自己中心的な性格がよく見られるという。さらに現代型うつは一見、“怠け”や性格の問題と捉えられることも多く、従来の抗うつ薬が効きにくいとされ、対応が難しいのが現状だ。また精神科医療の現場でも、現代型うつの患者は急増しており、日本うつ病学会でも対応策を模索し始めている。
今回、NHKが独自に実施した企業へのアンケート調査でも、現代型うつと見られる社員を抱える企業は65%に上り、対応に苦慮する企業の実態が浮かび上がってきた。番組では、大規模なアンケート調査を通してメンタルヘルス問題の全体像を把握するとともに、メンタルヘルス問題に積極的に取り組む企業や医療の最前線を取材。さらに現代型うつに悩む若者と企業の実態をドラマで描くという演出も取り入れながら、メンタルヘルスの問題にどう立ち向かっていけばいいのか、そのヒントを探っていく。

放送を終えて

「会社には行けないけど、遊びには行ける」というのは、本当に病気なのかと疑いたくもなります。ただ、“うつ”の症状があり、本人がつらいのは間違いない。そして“新型うつ”は間違いなく増えているのだから、何かしら社会の“ゆがみ”が出ているのだろうから、向き合っていかなければならないのではないか。そんな思いから取材を始めました。
生活習慣やコミュニケーションの取り方の指導など対応を模索する企業、失敗させまいと進学先や就職先の確保に奔走する親たち…。“新型うつ”を取り巻く状況から浮かび上がってきたのは、従来の社会の価値観に適応させようという“大人”と、適応できない苦しみを抱えた“若者”のギャップでした。
今回取材に加わっていただいた江川紹子さんは「どんな時に働いて幸せを感じるかという価値観が多様化して、社会がそれに対応できているかが問われている」と発言されていました。放送後、「会社中心の在り方だから新型うつが増え続けてしまう」、「ただのわがままな若者だ」など、番組には賛否両論、さまざまな意見が寄せられました。
教育の在り方や子育ての環境、社員教育や働き方まで、背景は複雑で一つの正解が出るものではないですが、「新型うつ」を入口に、今後の日本社会のあり方を考えるきっかけにしていただければと思っています。

ディレクター 真野修一