NHKスペシャル

巨大地下空間 龍の巣に挑む

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中国貴州省の巨大洞窟群に「龍の巣」と畏れられてきた場所がある。そこは、「世界最大の地底空間」。地域に暮らすミャオ族からは、「ミャオティン」と呼ばれ、あまりの闇の深さから、「そこは、冥界。決して入ってはならない」とされてきた。今回、2年にわたる交渉の末、中国政府から撮影の許可を得た。内部をくまなく調査、謎に包まれた「ミャオティン」の全貌と誕生の秘密を解き明かしていく。プロジェクトに参加するのは、30年前、ミャオティンに入ったフランスの洞窟探検家。世界の洞窟の成り立ちに詳しい日本の研究者。そして、闇を照らす技術で世界が認めた洞窟写真家など、総勢29名。ミリ単位の精度の3Dレーザーで測量し空間を再現。さらに、内部に照明を持ち込んで、闇を追い払うという前代未聞の挑戦を行う。待ち受けていたのは、想像を絶する驚異の世界だった・・・。
【語り】千葉雄大

放送を終えて

洞窟にはいくつもの「世界一」がある。世界最長、世界最深。龍の巣は「世界最大の空間」だった。私はこれまで様々な洞窟に潜ってきた。だが、龍の巣の上陸地点に立ち、言葉を失った。光も音も飲み込んでいく闇。まるでブラックホールのようだった。今回の調査は、地元政府の後押しもあり実現した。内部の情報が手に入るのであれば、是が非もないということだった。だが、このブラックホールに突っ込み、情報をつかみ取る。そんなことが本当にできるのか。不安に駆られながらもカメラを回し続けた。
 
およそ50日にわたる撮影と調査。仲間達の力を得ることで、龍の巣がついに目の前に現れた。その瞬間に感じたのは、闇からの解放感、そして畏怖だった。闇の中でも光の中でも、龍の巣はやはりこの世界のものとは思えない場所だった。

龍の巣は次々と私たちの感情を揺さぶる。ようやく調査を終えてほっとしたところで突然、無線から興奮気味に私を呼ぶ声が聞こえた。別行動を取っていた調査スタッフからだった。
「プタジが新たな空間を見つけた!真っ暗で何も見えない!」
“ちっぽけな人間に、すべてを照らせるわけがない”。龍の巣にあざ笑われた気分だった。

 思い返したのは、龍の巣で“ウーウー”という不気味な声を聞いたという老人だ。彼の話には続きがあった。「龍の巣の近くの川辺で手を洗っていた時のことだ。気配がして洞窟を見ると、懐中電灯のように光る2つの目があった。怖くてその夜は眠れなかった。」続けて「あれは幻ではなかった。」とつぶやいた。プタジが見つけた新たな闇。その先には、一体なにがあるのだろうか。

 GPSや衛星写真など科学技術が発達し、秘境がなくなったといわれる昨今。
しかし、地球にはまだ、そして確かに、「秘境」が残されている。


ディレクター
坂本 敬