NHKスペシャル

ベイリーとゆいちゃん

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神奈川県立こども医療センターには、医療現場に常駐するセラピー犬、ベイリーがいる。長期入院で気分が沈みがちな子どもに寄り添い心をいやしたり、手術室に行くのを嫌がる子どもに付き添ったり。ベイリーが関わった患者は9年間で実に3000人以上。ベイリーに始まった医療現場へのセラピー犬の本格的な導入は、今、全国の医療機関へと広がりを見せている。リハビリの現場にセラピー犬が参加すると、患者の回復が早まったり、自閉症児のコミュニケーション能力が向上したりするケースがあることが注目されている。今回、番組では、重い病と決別するため、大手術を受ける少女、ゆいちゃん(10歳)とセラピー犬ベイリーが、心を通わせながら様々な苦難を乗り越えていく日々を追う。さらに、最新科学は『なぜ犬が人間の心を癒やすのか?』その理由を解き明かしつつある。人と犬の間には、種が違うにもかかわらず『互いに愛情を感じ、心を癒やし合う仕組み』が確かに存在することが分かってきたのだ。それは、人と犬が共に歩んだ3万年の“共進化”が生みだした奇跡の絆だった。犬好きの方!必見です。

放送を終えて

『うちのワンちゃんは、私の気持ちを分かってくれているの』
『犬と一緒にいると、つらい気持ちが吹き飛ぶんだ』
そんな言葉をみなさんも良く耳にされると思います。それこそが、今回、私がこの番組を制作しようと思った出発点です。私自身も大の犬好き。犬好きでない人にも犬の不思議なチカラのことを知ってほしい。【なぜ人は犬に癒やされるのか?なぜ犬に特別な絆を感じるのか?】その謎を最新の科学で解き明かしてみたいと思いました。以前から番組でお世話になっていた麻布大学の菊水健史教授の研究(人と犬の間にはオキシトシンホルモンを介した強固な絆があるとの内容)が、サイエンス誌に掲載され、大きな話題になっていたことも、企画の実現を、さらに強く後押ししてくれました。
『ドッグセラピー』という言葉はかなり昔から使われてきましたが、実際にどんな人に対し、どんな作用でどんな効果があるのかはっきりしない、、、という状態でした。一方、欧米では以前より、犬の能力や人と犬の特別な関係や共進化について、盛んに研究が行われてきました。その結果、犬を介したセラピーの効果についても、それを裏付ける様々な事実が最近、次々と分かってきています。そんな成果の蓄積を受けて、ここ数年、日本国内で、大学病院や大病院が、医療現場へのセラピー犬の導入を次々と始めているのです。
番組では、日本最初の大病院専属のセラピー犬となったベイリーと、そのベイリーに支えられながら重い病と決別する大手術を受ける少女、ゆいちゃんの日々を追いました。重い病を抱える子どもが多い小児病棟、そして思春期に入ろうとしている少女の取材ということで、ハードルの高い取材でした。しかし病院やベイリーの関係者、何よりベイリーとゆいちゃんの前向きな気持ちもあって、ベイリーとゆいちゃんの印象的な場面を撮影することができました。番組を通して、二人の心のふれあいやベイリーが持つ不思議な能力を感じてもらえたらと思っています。
また番組では、国内外で進められている犬の能力についての科学研究や人と犬の共進化の秘密も取り上げています。『これまで常々不思議に思っていたことの理由が分かった!』と叫びたくなるような情報の数々は、犬好きの方にとって必見です。さらに、それらの科学情報が、ベイリーとゆいちゃんが心を通わせて苦難を乗り越えていくことの意味を、より深めてくれていたら、嬉しい限りです。
今、犬が持つ人の心を癒やす能力は、医療現場の患者のみならず、他者に心を開けない自閉症の子どもたちや認知症の高齢者に対しても、様々な良い効果をもたらすことも分かってきています。長い時間を共に支え合いながら歩んできた人と犬、そこで育まれた互いを癒やし合う仕組みは、現代の社会を生きる私たちを様々な場面で助けてくれる大きな可能性を秘めています。また機会があれば、是非、続編を作ってみたいと考えています。

大型企画開発センター 兼子将敏