NHKスペシャル

ニッポン “精子力” クライシス

男性の精子に危機が迫っている。「受精して、妊娠を成功させる力」(精子力)が衰えているというのだ。去年発表された調査結果では、欧米人の精子の数が40年で半減。別の調査では、日本人の精子の数は欧州4カ国と比較して最低レベルだった。数の問題だけではない。「動きが悪く、卵子までたどり着けない」「DNAが傷ついており、自然妊娠しにくい」などと指摘されるケースも多いという。
しかも、こうした“精子力”の衰えは、不妊のリスクだけでなく、様々な病気のリスクを暗示しているという指摘もある。何が原因なのか?これまでも化学物質の影響などが指摘されてきたが、身近な生活習慣も“精子力”に大きな影響をもたらすことが分かってきた。一方で“精子力”は、個人の努力で改善できる場合も多いという。
精子力アップの秘訣は?番組では専門家がポイントを解説する。

放送を終えて

このテーマを取材する前、男として自分の精子を気にかける機会が何度かありましたが、漠然と知っていたのは「年齢」の影響を受けることぐらいでした。「30代前半だし、自分は大丈夫だろう」とタカをくくって取材を進めると、「座りすぎ」や「睡眠不足」、「ストレス」など、普段のライフスタイルとの関係が次々と明らかになり、ほとんど当てはまっていることに怖くなったのを覚えています。もちろん個人差があるので一概にこれで精子力が低下すると断定はできませんが、この50年の日本人のライフスタイルについて調べると、「睡眠時間は1時間近く減少」「動物性脂肪の摂取量は2倍」「1日の平均座位時間は7時間以上」など、ことごとく精子にとって悪い方向に進んでおり、リスクにさらされる男性が増えているのは間違いないようです。特に、文明や社会の発展によって習慣が無意識に固定化されてしまっているのが怖いところ。日々の仕事や生活に追われると見落としてしまいがちですが、よくよく振り返ってみると、パソコンやスマホ、テレビに大半の時間を割き、食事はコンビニなどで適当に済ませてしまっていませんか。「より便利に、より豊かに」という欲望が人間を人間たらしめ、進歩を推し進めてきたわけですが、その代償として、私たちは種として根本的に備わっている能力をなくしつつあるのかもしれません。近年の研究では、私たちのライフスタイルが精子の遺伝子の働きまで変えてしまうことが指摘されており、次世代への影響も懸念され始めています。精子力は改善できる可能性がある以上、男性一人ひとりの意識を促すような社会の枠組みはどうあるべきか、個人レベルにとどまらず、国や企業なども一体となって方策を立ち止まって考える時期に来ているんだろうと思います。

ディレクター 田邊 裕也