NHKスペシャル

天才棋士 15歳の苦闘 独占密着 藤井聡太

奇跡とも言える連勝劇を披露、将棋界では「400年にひとりの天才」と呼ばれている藤井聡太四段(15)。番組では、去年10月のプロ昇進時から密着取材を続け、家庭や学校、対局前後の様子など、これまで報じられてこなかった姿をカメラに収めてきた。同級生からほめられてはにかむ笑顔、大好きな相撲観戦で横綱・白鵬と対面したときの緊張・・・見えてきたのは、どこにでもいる明るい中学生。ただ子どもの頃と変わらず将棋が大好きで、ひたすら強くなりたいと努力を続ける姿だった。
7月以降はトップ棋士から完膚なきまでに叩かれる対局が続いた。その差を埋めようともがき苦しむ藤井四段。この1年を追った未公開映像で、誰も知らない“天才”の素顔に迫る。

放送を終えて

 私が初めて藤井聡太に出会ったのは去年10月のことである。最初の印象は、「普通の中学生」。この一言に尽き、それは今も変わらない。ではなぜ、普通の少年が将棋界の歴史を変えるまでになったのか。1年の取材を通して、その要因は「才能と環境」にあると私は考える。まず、藤井聡太の才能とは“将棋が好きすぎてトレーニングが努力とも思わない”こと。正に、好きこそ物の上手なれである。他の誰よりも熱中するなにかが、藤井少年にとって、「将棋」であった。それだけのことにように私は感じる。そして、もうひとつは「環境」。藤井の母・そして師匠の杉本七段は本当に、藤井に口出しすることをほとんどしなかった。意外とこの自由を与えるというのは、簡単そうに見えて難しいことではないだろうか。杉本七段はこう語っている。「才能がある子を見るとアドバイスをしたくなるがぐっとこらえた。」大人が子どもに何かを言いたくなる気持ち、上司が部下になにかと口出ししたくなる気持ち。その善し悪しは、私にはわからないが、藤井聡太は間違いなく「周囲」が生んだものだと私は思う。「どうやったら我が子を天才に育てられるのか。」24歳の私は自分にもし、将来子どもができたら、そんなことを考えることなく、好きなようにやらせてあげたい。
ディレクター 山口大貴