NHKスペシャル

奇跡のパンダファミリー ~愛と涙の子育て物語~

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絶滅が危ぶまれるジャイアントパンダ。その繁殖で世界トップクラスの実績を誇る施設が和歌山県にある。白浜町の動物公園“アドベンチャーワールド”だ。近年では1年おきに赤ちゃんが誕生し元気に成長している。繁殖に失敗する施設も多いなか、なぜ大成功を収めたのか。その舞台裏に、初めてカメラが入った。200gと小さく、繊細なパンダの赤ちゃんには病気や温度の変化が大敵。死亡率が高いとされる、“魔の1週間”に密着する。さらにパンダの子育てが難しいのは人手が加わりすぎてもいけないこと。母親との濃密な接触がないまま成長すると、大人になっても異性とペアになれないことが近年の研究で分かってきた。徹底した“見守り”で必要最小限の介入にとどめ、“母性”の発揮を邪魔しない、白浜独自の飼育スタイルを明らかにする。子育ては母親が一手に引き受けるパンダだが、忘れてはいけないのが、ゴッドファーザー永明(エイメイ)だ。人の年齢にたとえると70歳以上で子をもうけた。群を抜く世界記録だが、すでに次の繁殖に向けて飼育員たちと筋トレに余念がない。 パンダという種を後世に残す、命のドラマを見つめる。

放送を終えて

絶滅のおそれがあるジャイアントパンダ。私が1000日密着した中で感じたことは、パンダという種の“宿命”、そして“宿命”を理解し懸命に寄り添う飼育スタッフの皆さんの“愛情”です。野生では中国の山奥にしか生息しないパンダ。今、世界各地で人の手による繁殖プロジェクトが行われています。番組で登場したお父さんパンダ・永明(エイメイ)もその一環で白浜にやってきました。動物園のパンダは野生のパンダとは違い、暮らす場所や将来を選ぶことができません。数を増やす“宿命”のもとに生きているからです。中国の一部では「野生化プロジェクト」という動物園のパンダを野生に返す取り組みが始まりましたが、多くのパンダは本来の生息地に帰ることなく生涯を終えます。だからこそ、飼育スタッフの皆さんは、1頭1頭と向き合い野生のパンダ以上に幸せに過ごさせてあげたいという強い思いがあります。放送後寄せられた感想に「絶滅のおそれがある貴重な動物ですが、仕事としてではなく、まるで家族や子どものように愛情を持って接している姿を見て感動した」というものがありました。数を増やす職務を全うすることはもちろん、パンダと寝食をも共にし、向き合い続けるスタッフの“愛情”が伝わったことを嬉しく思いました。番組の「奇跡のパンダファミリー」というタイトルは、パンダだけではなく、飼育スタッフの皆さんも合わせての「パンダファミリー」なのかもしれません。白浜などの繁殖成功により、パンダの数は徐々にですが増えています。パンダの命が白浜を起点に未来へとつながって欲しい。心から願ってやみません。

ディレクター 伊藤悠一