NHKスペシャル

森の王者 ツキノワグマ ~母と子の知られざる物語~

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森の王者と言われるツキノワグマ。しかし、警戒心が強く鬱蒼とした森の奥深くで暮らしているため、その生態はこれまでほとんど知られていなかった。その謎に満ちた暮らしぶりに迫れる場所がある。栃木県西部の足尾だ。銅山の開発のため、一時は森が壊滅的な打撃を受け禿げ山となってしまったが、今、森が復活しはじめツキノワグマが毎年子育てを行い、多いときには3組もの親子の姿を同時に観察することができるまでになっている。地元、日光市の動物カメラマン横田博さんは、28年に渡りこの地でクマの撮影を行ってきた。400時間を超える映像には、春、冬眠の巣穴から生まれてまもない子グマをつれて出てくる母グマの姿から、座り込んで二頭の子グマに同時に授乳する微笑ましい姿など、これまで撮影されたことがない子育ての一部始終がとらえられている。また落石に巻き込まれて崖を転げ落ち九死に一生を得た子グマが成長、一人前のオスグマになるまでの長期にわたる観察ならではのドラマやオスの“子殺し”という研究者さえ知らなかった驚きの生態まで記録されている。森の木々が回復途上で密生しておらず、さらに谷が深く対岸の山の様子が手に取るよう観察できる足尾。横田さんが10年前に「次郎」と名付けて長く追い続けるクマを中心に、今、明らかになりつつあるツキノワグマの素顔を描く。

放送を終えて

番組放送後、オスグマを非難する声がツイッター上にはあふれていました。
それはそうです。あんなにヒドイことをするんですから。
でもみんな、それぞれが命をつなぐためにやっていること。

研究者の方から、こんな感想をいただきました。
「多くの動物番組がハッピーエンドで終わることが多く、違和感を感じていましたが、
今回は我々が日常から接しているクマの本当の姿に限りなく近く、こういった姿を多くの方に
伝えたいと思っていたので、今回の番組は本当によかったと思いました。」

30年前、京都北山の山中の林道で巨大な黒い影に出会いました。
林道脇の5mはあろうかというガケを軽やかにひとっ飛びで駆け上っていきます。
本州・四国の森の主、ツキノワグマ。
1億3千万人近くが住むこの日本に、こんな野生の世界があると想像するだけで
ワクワクしたことを昨日のことのように鮮明に覚えています。

今回の番組を作ったのは、出演者の横田さんはじめ、ディレクター、カメラマン、編集さん
みんな60代後半の長年、動物の映像に携わり続けてきた大ベテランの方々ばかり。
野生動物のことを考え続けてきたからこそ、「森の主」ツキノワグマには、
心惹かれてならないと言います。
そんなみなさんが、合宿生活をしながら山に通い続けたから、これまで誰も見たことのない
とんでもない瞬間に巡り会えました。

みなさんから多く寄せられた声のように「次郎のその後を見たい」と思ってやみません。

【制作統括 伊豆浩】