ばっちゃん ~子どもたちが立ち直る居場所~
去年、刑法犯罪で検挙された少年・少女は3万8921人。このうち再犯者の割合は36.4%と18年連続で増え、過去最高を記録した。格差の拡大や深刻化する貧困に伴い、子ども達が過ちを犯すリスクは高まる一方だが、ひとたび道を踏み外せば、ネット上に実名や写真がさらされ集中砲火を浴びるなど、つまずいた子ども達を支え、見守り、立ち直らせる社会の力は、以前にも増して脆弱になっている。こうした中、そんな子ども達に寄り添い、その立ち直りを支えてきた女性が広島にいる。“ばっちゃん”こと、元保護司の中本忠子(チカコ)さん82歳。6年前に保護司を引退した後も、自宅を開放し、親身になって相談にのっている。集まってくるのは、貧しさのあまり家で食事をとれない少年や、母親から虐待され続ける少女など様々。直面する問題は、現代社会が抱えるゆがみやひずみそのものだが、どんな絶望的な状況にある子ども達も、中本さんと触れあううちになぜか立ち直りの機会を見いだしていく。番組では、子ども達が中本さんとの交流を通して人生を取り戻していく過程をドキュメントする。
放送を終えて
『こんなに大変で、感謝されない事もあるのに、なぜ続けられるのですか?』
『子どもから面と向かって「助けて」と言われたことがない人には分からないんじゃないの?』
取材している時に一番衝撃を受けた言葉を、番組のラストコメントにしました。
私は2009年に中途採用でNHKに入局し、広島赴任となりました。“ばっちゃん”こと中本忠子(ちかこ)さんが暮らす広島市基町は、かつて原爆で焼け出された人たちが多く暮らしていた地域で、赴任間もない私は、原爆に関わる企画を出そうと基町を取材していました。小学校に話を聞きに行った際、校長先生との雑談の中で「基町にはマザーテレサがいる」と聞いたのが全ての始まりでした。
あれから8年あまり。もちろん、他の番組を制作しながらではありましたが、ばっちゃんと子どもたちにカメラを向け続けました。ここに現代社会のひずみが凝縮されている感じていたからです。そんな長期にわたる取材を許してくださった、ばっちゃんと子どもたちに感謝の言葉しかありません。放送後、多くの反響が寄せられました。そのことを、ばっちゃんと子どもたちに伝えたところ、喜んでくれた事が、何よりも嬉しく、社会が少しでも良い方向に変わっていってくれればと願うばかりです。
ディレクター 伊集院要