NHKスペシャル

巨大災害 MEGA DISASTER Ⅱ 日本に迫る脅威
地震列島 見えてきた新たなリスク

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巨大地震から5年、膨大なデータによって、地震学の“常識”をくつがえすような新たな脅威の可能性が次々と浮かび上がっている。東北沿岸では、巨大地震で沈下していた陸地が数十センチも隆起する一方、沖合の海底ではプレートの複雑な動きが捉えられ始めた。こうした大地の“異変”に、地下深くに存在するマントルの動きが関わっている可能性があることが、最新の研究からみえてきた。マントルの動きによって日本列島の地盤が変形しており、新たな地震のリスクにつながる危険性も浮かび上がっている。さらに、GPSの詳細な分析からは、日本列島がのる巨大な岩盤・プレートが実はいくつものブロックに分かれている可能性も指摘され始めている。日本列島の真下に大地の巨大な裂け目が潜んでおり、そうした場所では大きな地震が発生しやすいことがわかってきている。いま、日本列島の地下で何が起きているのか、その予兆をつかむことはできるのか。加速する地震研究の最前線に迫る。

放送を終えて

 マントル、粘弾性、プレート…。サイエンスの難解な言葉と向き合い続けて4か月。取材の中で、忘れられないロケがあります。
 シアトル近郊で水圧計が見つかり、日野さんが再会する場面です。5年ぶりに目の前に現れた水圧計に、子どものように無邪気な表情を見せる日野さん。いくつもの奇跡が重なって、パソコン画面に現れた津波のデータを確認したとき、我が事のようにうれしい気持ちになりました。
 しかし、日野さんにとっては単純に“うれしい”という気持ちだけで表されるものではありませんでした。口から出たのは「役に立てなきゃいかん」という言葉。被災地で研究を続ける科学者としての使命を感じていたのです。その言葉を聞いたことで、今回の番組では、最新の研究成果を伝えるだけでなく、科学者たちの真摯な思いや姿勢も一緒に伝えるべきだと思うようになりました。
 今回の番組を通じて、地震に対して恐れるだけでなく、その脅威とどう向き合っていけばいいのか、考える機会になればと願っています。震災5年の節目の年に、この番組に携われたことを光栄に思います。取材にご協力頂いた皆様、番組をご覧いただいた皆様、どうもありがとうございました。

(ディレクター 金森 誠)


“あの日から5年”をキーワードに、巨大地震の最新研究に迫った今回の番組。取材当初、ある科学者から「地震について研究すればするほど分からないことの方が多くなってきた」と語られ、「この番組は成立するのか?」と何とも言えない不安な気分になりました。
しかし、この5年間に起きている奇妙な現象や今後起きうる巨大地震の実像に、緻密なデータ分析と大胆な仮説で迫る科学者の熱意に触れるうちに、当初の不安は薄れていきました。そして「自分たちは何も分かっていなかった」という科学者たちの謙虚な姿勢こそが“巨大地震を覆う薄皮”を1枚1枚剥がしているのだと実感するようになりました。
こうした科学者の謙虚な探究心が呼び起こした1つの奇跡が、エンディングで紹介した“水圧計との再会”だと思っています。地球に秘められたエネルギーは、私たちに猛威をふるうことがありますが、屈することなく謎に迫る者にだけ、わずかばかりのヒントを与えてくれるのかもしれません。
最後に、牡鹿半島で出会った漁師さんの言葉が今も忘れられません。
「5年経って海も港もきれいになったけど、まだ何か起きそうな気がしている」
「胸騒ぎがおさまらない」。
“地下に潜む新たなリスク”の正体が今後さらに解明されることを願ってやみません。

(ディレクター 竹上純一)