NHKスペシャル

司馬遼太郎思索紀行 この国のかたち
第2集
“武士”700年の遺産

日本、そして日本人とは何か?作家・司馬遼太郎の作品『この国のかたち』を通して、現代の日本人へのメッセージを読み解くシリーズ。
第2回のテーマは、“武士”。司馬が注目したのは、鎌倉時代の武士が育んだ、私利私欲を恥とする“名こそ惜しけれ”の精神だった。それは、武家政権が拡大する中で全国に浸透、江戸時代には広く下級武士のモラルとして定着したという。そして幕末、司馬が「人間の芸術品」とまで語った志士たちが、この精神を最大限に発揮して維新を実現させた。明治時代に武士が消滅しても、700年の遺産は「痛々しいほど清潔に」近代産業の育成に努めた明治国家を生みだす原動力となった。それが続く昭和の世に何をもたらし、どのように現代日本人へと受け継がれたのか-?「名こそ惜しけれ、恥ずかしいことをするな」。グローバリズム礼賛の中で忘れ去られようとしている日本人独自のメンタリティに光を当てる。

放送を終えて

「小説家ですから小説を書かねばなりませんが、もう書くべきことは書いたとも思っています。日本(日本人)とは何か、ということでした。お浄土に帰る日がいつくるかわかりませんので、アミダさんからの召集令状が来る前に語っておきたいのです」。 今回、司馬遼太郎さんの未公開の手紙を取材した中で、最も印象に残った文面です。 これは『この国のかたち』の執筆開始から2か月後、担当編集者に宛てられたものでした。執筆・対談・講演など精力的に活動した司馬さんが、語り足りないとしたのは、何だったのか。私は全国を取材するうち、その答えが、日本人の中に連綿と受け継がれてきた精神性と、その危うさを明らかにすることに違いないと、確信するようになりました。しかし司馬さんの日本人論を、古代から現代まで行き来しながら映像化する作業は難しく、反省の連続となりました。 司馬さんは作品のなかで、日本人の「たたずまい」は、時代や環境が変化しても、そう簡単に変わらないことを前提に語っています。であるならば、私たちは未来に備え、武士を通じて育んできた精神を見つめ直す必要がある。それが没後20年のいま、司馬さんに向き合う最大の意義に感じます。
(ディレクター 森田 健司)