NHKスペシャル

ママたちが非常事態!? ~最新科学で迫る
ニッポンの子育て~

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女性が子を産み、母になる。その時、母親たちの脳や体に、驚くような変化が次々と 起こることが、最新科学から明らかになってきました。人類進化の過程で、育児を成 し遂げるための特別な能力が、お母さんたちに備わってきたのです。ところが、ニッ ポンのお母さんたちは今、子育てに深刻な悩みや不安を抱え、悲痛な叫び声をあげて います。助け合いたい夫に対しても、出産後はなぜかイライラが止まらず、離婚の危 機も。母親たちが結びつきを求める「ママ友」は、日本特有の社会現象として世界か らも注目されています。なぜ母親たちは、これほど育児に苦しめられているのでしょ うか?原因を最新科学で探ると、意外にも、人類700万年の進化にまでさかのぼ る、子育ての知られざる真実が見えてきました。これは、育児世代だけでなく、母親 から生まれ育てられた全ての人たちの知的好奇心を揺さぶる、科学エンターテイメン トです。
【関連放送】
ママたちが非常事態!?Ⅱ
~最新科学で迫る ニッポンの子育て~

放送を終えて

 今回、乳幼児を持つ多くのお母さんたちを取材させてもらいました。実は私も3歳児の母。取材といいながら、気づくと一緒に育児トークに。別れ際には、私も相手のお母さんたちもみな、とてもスッキリしていました。
 企画のきっかけは、私自身が体験した“不安で孤独な育児”の理由を解決したい、という思いでした。気づくと、ママ友作りにも我を失うほど躍起に・・・。番組で紹介している人類太古の子育て=「共同養育」は、人類が次々と子供を産み育てるための仕組みとして語られましたが、長い子育て期間が必要な人間の子供の養育分担や、母親自身の心の負担軽減など多くの役割があり、人類の子育てを根幹から支えていたのだと思います。
 番組に込めた思いは2つ。1つは、自分を責め、追い詰められているお母さんに、「もっと気楽に、ツラいのはあなたのせいではない、一人で背負う必要はない」と伝えたいという思い。もう1つは、子育てを取り巻く全ての人たちに、「子育てに対してほんの少しの寄り添いを持ってもらえたら」という思いです。たった一人のほんの少しの寄り添いでも、集まれば大きなものに変わりうると思っています。

【科学・環境番組部・ディレクター 小林欧子(3歳児のママ)】


 放送終了後、多くの反響をいただきました。
「なぜ子育てがこんなに苦しいのか?その理由が分かってほっとした」
「横で一緒に観ていた夫が涙を流していた。私の苦労を労ってくれた」 寄せられる言葉のひとつひとつに、スタッフ一同、「この番組を作って本当に良かった」と改めて思いました。
 今回の番組では【人間の身体に秘められた神秘】も大きなテーマでした。母の身体にすり込まれた共同養育の本能ゆえに起こる“育児の孤独感”、未熟な脳を持って産まれる宿命のために起こる赤ちゃんの夜泣きやイヤイヤ期など。母が抱える苦悩の根源にあるのは、人類が進化の過程で獲得した様々な機能と急速に変わる社会環境との間に生じたギャップなのだ、という”気づき”を味わってもらえたらと思いながら制作しました。
 医学・科学技術分野の研究はいうまでもなく急速に進歩していますが、人間の営みを科学する社会科学的研究はまだまだこれからの分野です。その分、様々な驚きや気づきに溢れている、とてもエキサイティングな分野でもあります。  
 反響の中にこんなものもありました。
「ママのことは分かったけど、パパの科学はやらないの?」
「育児が終わった夫婦の悩みも取り上げて!」
今後も、私たち人間が暮らしの中で抱える悩みや疑問に、科学で迫っていきたいと思います。

【チーフ・ディレクター 兼子将敏(子育て経験はないが、脳はママ並みに進化?)】