NHKスペシャル

調査報告 介護危機 急増“無届け介護ハウス”

法律で定められた行政への届け出を行っていない“無届け介護ハウス”が、全国で急速に拡大している。背景にあるのが、正規の老人ホームに入れず、家族による介護も受けられない高齢者の急増だ。比較的収入が少なくても入所できる「特別養護老人ホーム」(特養)は、52万人が入所待ちの上、今春には、入所条件が要介護3以上に限定され、入所はさらに難しくなった。一方、病院は患者の7割以上を“在宅”に帰さなければ、診療報酬が加算されないため、次々と高齢者を退院させる。社会保障費を抑制しようと「在宅介護」を推し進めようとする国の政策が、皮肉にも、行き場のない高齢者を急増させ、 本来国が認めていない“無届介護ハウス”へと高齢者をいざなう事態となっているのだ。
国の想定をはるかに上回る速度で、介護が必要な高齢者が増え続ける中、制度と現実の狭間に取り残される高齢者の姿と、その隙間を埋めるべく急速に拡大する“無届け介護ハウス”を描き、介護保険制度の矛盾を浮き彫りにする。

放送を終えて

「無届けの施設」と聞くと、「悪い施設」を思い浮かべてしまうかもしれません。しかしそこで暮らす高齢者は、入居待ちや利用料の問題で正規の施設には入れなかった人ばかり。もし法律に従って届け出がされると、個室になって利用料が上がるため、行き場を失ってしまうのです。そして年金を10万円以上もらう人にとっても、無届けの施設は最後のセーフティーネットになっていました。次第に、悪いのは、高齢者の受け皿を確保できない介護保険制度の方ではないかと感じるようになりました。
しかし一方で、行政の目が行き届かないため、虐待が放置されていたり、介護報酬が過剰に請求されるケースもあります。それもまた、無届け介護ハウスの一断面です。
結局、“無届け介護ハウス”は良い施設なのか、悪い施設なのか。一年かけて取材しましたが、私にはどちらとも言い切れません。だからこそ番組では、無届け介護ハウスの良い面も悪い面も、丹念に取材する道を選びました。現実はとても複雑で、善悪二元論だけで片付けられないということを、今回の番組を通じて痛感させられました。無届け介護ハウスが映し出す現実を、一人でも多くの方に受け止めて頂ければ幸いです。


(ディレクター 丸岡裕幸)