NHKスペシャル

いのち 瀬戸内寂聴 密着500日

文化勲章受賞者、作家で僧侶の瀬戸内寂聴、1922年生まれの満93歳。そんな彼女を過去5年間、至近距離から記録しつづけたプライベートな映像がある。これまで「どうしてそんなにお元気なんですか」と尋ねられると「元気という病気よ」と笑って答えていた寂聴。しかし、2013年から1年間連載した「死に支度」には、残り時間を意識した心の揺れが投影されている。連載終了後は、激しい腰痛のため入院。その入院先でがんが見つかり、手術を受けた。一時は「もうこのまま生きていても仕方ない」と鬱々とした日々を送った寂聴だが、厳しいリハビリの末にいまようやく再起の時を迎えつつある。
誰もがやがて必ず経験する「老い」。その苦しさ、奥深さ、そして豊かさを、初めて公開される瀬戸内寂聴のプライベート映像を通して描いていく。



放送を終えて

 瀬戸内寂聴先生(以下先生)には、度々だまされ、しばしば驚かされ、いつも感動させられます。まず、人生“最後”と銘打った小説を度々書いているということ。これは、結果的にだましていることになります。今回も、「闘病記」を書くと言い出して、結果的に苦しむことになりました。最も驚かされたのは、腰椎の圧迫骨折の激痛で精神的に追い込まれているときに、胆のう癌が発覚したときのこと。医療関係の番組を以前作っていて多少の知識があった私は、医師の説明を一緒に聞いて欲しいと先生に呼ばれたのです。私は、さしもの先生もがっくりと落ち込み、手術などしないと言うのではないかと覚悟しました。ところが、先生はその場で手術を即断し、「これでまた何か書ける・ワクワクして来た」と微笑んだのでした。土壇場で生命力のスイッチを入れた先生の強さに、心の底から感動をおぼえました。 先生にも確実に老いが忍び寄り、そのときは近づいています。でも、その瞬間がくるときまで、笑顔で、前向きに、人に優しく生きているはずだと、私は確信しています。 (ディレクター 中村裕)