NHKスペシャル

“ジョーズ”の謎に挑む ~追跡!巨大ザメ~

この夏、日本各地の海水浴場にサメが現れ、騒動を巻き起こした。そのサメの中でも最も恐れられているのがホホジロザメ。体長は最大で6メートル、体重3トン。飛び出すアゴに鋭い歯。映画「ジョーズ」のモデルとなり世界中を震撼させた巨大ザメだ。調査には危険が伴うため、これまでその生態は謎に包まれていた。しかし、発信機の装着調査などから獲物を求めて世界中の海を大回遊し、その巨体からは想像できない知的で効率的な狩りをしていることがわかってきた。そうした生態を明らかにしてきたのが、アメリカ人、グレゴリー・スコマル博士。最近、人間では観察不可能な行動をとらえようと画期的な観察装置を開発した。それはシャークカムと名づけられた魚雷の形をしたロボットカメラ。なんとサメに取り付けた発信器からの信号をキャッチし、自動的に追いかけ撮影を行うという試みだ。足かけ2年にもおよぶ調査の結果、シャークカムはついに、ホホジロザメが水中で獲物を襲う姿をとらえることに成功した。番組では、シャークカムがとらえた世界初の貴重な映像とNHKが海上と水中から撮影した狩りの瞬間のハイスピード映像を駆使し、これまでのイメージを覆す新しい「ジョーズ」像を描き出す。

放送を終えて

 人食いザメの代名詞ともいえる「ホホジロザメ」。あれだけの巨体で目立ち、その知名度にもかかわらず、あまりにも謎だらけなことにまず愕然(がくぜん)としました。そして、「残忍」「凶暴」といったイメージばかりが先行し、無秩序に駆除されて今や絶滅に瀕(ひん)していることにさらに驚きました。番組の放送中、「人とホホジロザメ、どちらが危険な生き物なのか…」などとツイッターでつぶやかれた意見の数々が印象的でした。
 一方、調査技術の進歩は目を見張るものがあります。ロボットカメラ「シャークカム」にはただびっくり。この技術は、自律型水中ロボット(AUV)として1970年代から開発されてきたようですが、海底地形を計測したり、海底資源を探査したりするのが目的でした。高速で泳ぐサメを追尾し、撮影できるほど接近できるなんて、関係者は信じられないといいます。こうした技術はさらに応用が進み、これまで見えなかった世界が、今後ますます明らかになっていくことでしょう。
 科学技術の発達で、モノゴトの真の姿が見えてくる。見た目のイメージにとらわれやすい私たちですが、科学技術をうまく賢く使いこなせることができれば、人類のみならず地球全体で優しい暮らしができるはず…と番組制作を通じて感じたことです。


(ディレクター 小山靖弘)