NHKスペシャル

戦後70年 ニッポンの肖像 -政治の模索- 第1回 保守・二大潮流の系譜

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焦土と化し、国民生活が困窮する中でスタートした戦後政治。1955年に結党された自民党は、“豊かさ”の実現を優先するのか、それともGHQ主導で進められた体制から脱し、国家としての“自立”の実現を優先するのか、吉田茂・岸信介という二人の総理大臣に代表される二つの路線がせめぎ合いながら、政権を担い続け、戦後政治を形作っていった。
安保改定の末、岸が退陣して以降、“豊かさ”路線が主流となったが、一方で、“自立”を目指す動きも脈々と党内に引き継がれていった。
そして今、安倍政権は、アベノミクスを掲げて高い支持率を得る一方で、戦後の安全保障政策の転換を進め、「憲法改正」への意欲も示している。番組では、新たに発掘した史料や、関係者へのインタビューなどを通して、自民党内に流れ続ける二つの路線の源流に遡り、戦後初期から1960年代にかけての日本政治の模索を見つめ直す。

放送を終えて

「戦後政治とは何だったのか」。番組では吉田茂と岸信介という2人の政治家を通じて、保守勢力の中に流れる二大潮流を見つめました。戦後政治の潮流のバックボーンにあるものを探り、今の政治状況を考える手がかりを見つけたい。これが制作期間を通じて、私が持ち続けていた問題意識でした。
取材で実感したのは、政策決定のプロセスに、権力闘争や人間関係が相まって進んでいく政治のダイナミズムと奥深さでした。吉田と岸という2人の政治家の間にあった激しいせめぎ合い。それは政策や国家観の違いだけでなく、政権維持の執念やお互いへの対抗意識などが、複雑に絡み合ったものでした。番組では政策面だけでなく、そうした2人の「人間臭さ」も描きたいと考えました。両者の関係や思想が、端的に表れている発言や物証を求めて、膨大な史料と格闘しました。「細部に神は宿る」という言葉がありますが、抽象論ではなく、具体的な発言や書簡の言葉の中から、2人の考えの本質を伝えることを意識しました。それが記された史料や関係者の証言に出会った時、何度もぞくぞくするような興奮を覚えました。
「歴史とは現在と過去との対話である」という歴史学者の言葉があります。現在の時代から過去を新たな視点で捉え直し、将来を展望していく。このことの大切さを実感した番組でした。今後も歴史的な視点を持ちつつ、現在の政治状況を取材していきたいと思います。

(報道局 政経・国際番組部 ディレクター 安井浩一郎)