NHKスペシャル

腰痛・治療革命 ~見えてきた痛みのメカニズム~

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あなたのその腰痛は、「腰」ではなく「脳」に原因があるかもしれません。その場合、症状が劇的に改善する可能性があります。

治療しても効果がなく、一度治ってもぶり返すなど、なぜか長引く「慢性腰痛」(3か月以上痛みが続く腰痛)に悩まされている人達がいます。その数は、腰痛に悩む2800万人のうち、およそ半数に及ぶと推定されています。あなたの周りにも、お困りの方いらっしゃいませんか?

最新の研究で、その「慢性腰痛」の詳細なメカニズムが明らかになり、原因が「脳」にあることが分かってきました。そして「脳」の働きを改善し、腰痛を克服する対策が大きな成果をあげています。例えば、腰痛への不安を解消する映像を見る、恐怖心を克服する運動をするなどの対策を取るだけで、症状が改善する人たちがいます。また、専門的な心理療法を取り入れることで、極めて重い症状の患者の腰痛が改善するケースも出始めています。

こうした方法は、日本でも腰痛治療のガイドラインに記されていますが、一般の患者にまでは広がっていないのが実態です。医療費の負担や、休職者の増加が大きな社会問題にもなっている国民病「腰痛」。長引く腰痛の方々へ、世界が認めた最新対策をお伝えします。

放送を終えて

ぎっくり腰を起こしたことはありますか?私はあります。
10年ほど前のこと。ちょっとした違和感が腰に走ったと思ったら急激に痛みが悪化。耐えられずにいちど地面に腰をおろしたが最後、どうしても立ち上がることができない・・・
助けを呼んでタクシーに乗り、たどり着いたクリニックで検査を受けました。X線画像を見た医師は「分離症がありますね」と一言。私の腰骨には、骨の一部が欠損している場所があったのです。「これが、原因なのですね?」衝撃とも安堵ともつかぬ思いの中でそう声をかけた私に、医師はひとこと。「いや、そういうわけでもないんですよね・・・。様子を見ましょうかね」 キツネにつままれたようなそのときの気持ちを、鮮明に覚えています。
それから10年後、私は今回の取材を通じて、腰痛の最新状況を知ることができました。そこからわかったことは、人が痛みを感じるメカニズムの複雑さです。痛みはたんに腰の異常だけではなく、その人の持つ痛みへの「恐怖」の感情や生活環境など様々な要素が関係しているものであり、画像検査だけではその本当の姿を推し量ることは出来ない、ということでした。
今回の番組は、なぜか長引く腰痛にお悩みの人を対象に、ご覧になった方が「自分で」対策するために必要な要素をできるだけ盛り込もうと考えました。重視したのは、単なるノウハウだけでなく、痛みに対処する根本となる「考え方」を紹介すること。腰痛に苦しんでいた10年前の私に語りかけるつもりで番組を作りました。
番組の最後、出演者の笹野高史さんがおっしゃったコメントと同じことを、いま私も感じています。
「もう腰痛は、怖くない」
(科学環境番組部ディレクター 市川 衛)

慢性腰痛の多くは「正しい知識の不足などによる無用な恐怖」が生み出している“幻の痛み”であることが科学的に分かってきました。腰痛を改善するために重要なのは、“簡単”に恐怖を克服できる方法を“具体的に”示すことです。だからと言って、信頼性の乏しい方法を提示するわけにはいきません。そのため、世界的な腰痛の権威とタッグを組んで、科学的な根拠のある方法だけを厳選しお伝えすることに努めました。
これまで数万人規模で腰痛患者を改善に導いた東京大学医学部附属病院の松平浩さん、さらにヘルニア手術の権威・稲波弘彦さん、そして国際的な腰痛学会の会長も務めた菊地臣一さんの監修を受けて対策法を考えました。さらに、国内外の論文や、治療の指針となるガイドラインとも照らし合わせて「効果アリ」とお墨付きがあるものを選んだのです。 ご紹介した「映像を見る」「1回3秒背をそらす」どの対策も自信を持ってお伝えできるものです。「本当にこれで改善するの?」と思われる方も、とにかく実践してみませんか?
2週間で、あなたの長引く腰痛は劇的に改善する可能性があるのです。
(科学環境番組部ディレクター 小澤 恵美)