NHKスペシャル

シリーズ日本新生 ニッポン"空き家列島"の衝撃
~どうする?これからの家と土地~

年末年始に多くの人々が帰省し、くつろいだであろう実家。しかし近い将来、その実家の処分に頭を悩ます時代が来るかもしれない。人口減少が進む中、売ることも貸すこともできず、税金を払い続けるだけの「負の遺産」になりかねない。すでに空き家の問題は、全国で深刻化し始めている。今や7~8軒に1軒は空き家、今後も急増すると予測されている。また、都市部でも中古住宅より“新築住宅”を優遇し続けてきた結果、住宅の増加には歯止めがかからず、さらに空き家を増やす要因ともなっている。一方で、水道などインフラの維持費用の負担の増大から、コンパクトシティを目指す動きが加速しているが、先行きは見えないまま。
根幹が揺らぎ始めている日本の住宅政策、そして国土利用。空き家問題を入り口に、人口減少時代に向けた対策を考える。

放送を終えて

番組の取材を始めてから、住宅地を歩くときに家の状態に注意を払うようになりました。
すると、タワーマンションの建設ラッシュが続くエリアのすぐ近くなのに、空き家とおぼしき家がここにも、あそこにも・・・。東京近郊でも空き家がじわじわと増えていること、そして「空き家問題」がもう目の前に迫っている課題だということを痛切に感じました。

同時に思いをめぐらせたのは実家のことです。長男である私は転勤族。実家で暮らす妹夫婦に子どもはいない。近い将来、実家が空き家になってしまう現実にはたと気づき、どうしていけばいいのか、「空き家問題」が我が身に降りかかる危機として迫ってきました。
人口減少時代を迎えた日本が直面する構造的な問題だからこそ、私たちは「空き家問題」をNHKスペシャルで問題提起したいと考えたのですが、実は、ごく身近な課題として捉えてもらうことから始めなくてはいけないのではないかと気づいた瞬間でした。身近な問題として考え始めれば、これから先どうしていくべきか、自ずと将来に思いを馳せることになるからです。
実際、スタジオでの討論がもっとも活発化したのは、国が掲げている町のコンパクト化についての議論が、「自分の親にどこに住んで欲しいか」という話になったときでした。およそ10分間にわたって、司会の三宅アナウンサーが一切口を挟まないまま、有識者と一般市民が入り交じって意見をぶつけあったのです。

映像メディアであるテレビは、いま起きていることを伝えるのはリアルな映像があるため得意ですが、逆に、将来の問題については映像がない分、問題の大きさ、深刻さを伝えることに苦労します。ですが、ひとりひとりの身に起きる問題だというリアルさを突き詰めることで、もっともっと未来の問題の伝え方が広がるのではないか。複雑で難しい話をどうテレビを通じて届けるか、改めて考えさせられた番組でした。

(ディレクター 松島剛太)