NHKスペシャル

謎の古代ピラミッド ~発掘・メキシコ地下トンネル~

誰が、何のために作ったのかさえ分からない謎の古代遺跡、解明の鍵を握る人物の墓が発見されようとしている―。今年3月、世界最大級のピラミッドを擁するメキシコの世界遺産「テオティワカン」の発掘現場に、世界で初めてNHKのカメラが入った。そこはピラミッドの地下15メートル、長さ100メートルにわたって続く「古代トンネル」の最奥部。これまでにヒスイの装飾品など貴重な出土品が相次いだことから、この文明にとって最も重要な人物の墓=王墓があるのではないかと、期待が高まっている。
テオティワカンの発掘は、「なぜ文明が生まれるのか」という問いに、新たな答えをもたらす可能性を秘めている。従来、文明は富と力を背景にした権力者を中心に生み出されると考えられてきた。しかし、近年の調査により、テオティワカンは、何者かが建てた小さなピラミッドへの信仰を起点に発展したことが明らかになってきた。ピラミッドは世界の成り立ちを説明するために作られ、その世界観に魅せられた人々が自発的に集い、やがて文明が生まれたというのだ。手がかりを求めてペルーの古代アンデス文明の遺跡や、トルコの“人類最古の神殿”の発掘現場も取材。果たしてテオティワカン誕生の鍵を握る人物の墓は見つかるのか?古代のミステリーに挑む日本と世界の考古学者たちとともに、新たな文明論に迫る。

放送を終えて

ピラミッドの地下で謎の地下トンネルが発見され、大発掘が行われている-。そんな話を耳にしたのは2013年の秋のことでした。現場はメキシコの誇る世界遺産・テオティワカン。学生時代にもバックパッカーとして訪れた、思い出深い遺跡です。

古代文明、ピラミッド、謎の地下トンネル、そして未発見の王墓・・・。私はこうした言葉を聞くと無性にワクワクしてしまうたちで、これは面白そうだと思い、ダメもとで企画を出しました。すると、番組化を目指してトライしてみようということになり、2014年の2月ごろに実現に向けて動き始めました。講演のために来日した発掘団長のセルヒオ・ゴメス氏(メキシコ国立人類学歴史学研究所)に直接お会いして、撮影のお願いをし、さまざまな制約はあるということでしたが、口約束としては「前向きに検討」というお返事でした。

しかし正直、その時点では、実現可能性は1~2%だと思っていました。世界各国やメキシコ国内のメディアもトンネルの最奥部には入れていないと言っていましたし、撮影できたとしても、5年10年という長期間にわたる発掘の一部を一期間だけ捉えたところで、何が撮れ、何を描けるのか、実際にはほとんど未知数だったからです。
寛大なプロデューサー陣のおかげで、とにかく現場に行かねば何も始まらないだろうということになり、「とりあえず」現地に飛びました。今思えば、かなり無鉄砲かつ無謀なことですが、動かなければ始まらないということは、制作の現場ではままあります。

現地に着くと、やはり撮影許可の取得は難しそうで、途方に暮れかけました。が、発掘現場を訪ねて、セルヒオさんに再会すると、事態は動き始めました。セルヒオさんは情に厚く義理堅い方で、口約束を頼りにはるばる日本から来た私たち撮影スタッフを歓迎してくれました。そして、「本当にメキシコまで来たのか!?俺はこの『カブロン』が気に入った!」と言って、現場に入れてやる、撮らせてやるとおっしゃってくださいました。『カブロン』というのは「この野郎、ばか者」といった意味のスラングらしいのですが、つまりは、意気に感じてくださったということだろうと思います。

その後、セルヒオさんは約束を守り、長期にわたる撮影に最後まで根気よくつきあってくださいました。発掘の妨げにならないよう注意をしつつも、やはりどうしても邪魔になってしまい、怒られることもありましたが、時には発掘スタッフと撮影スタッフとで酒を酌み交わし、友情(と私は思っています)も芽生えました。
そして幸運にも、撮影期間中に大きな発見を目の当たりにすることができました。結果的には、これまで5年以上にわたる発掘の中でも、「ここしかない」というタイミングだったと思います。最初の暗中模索ぶりからすると、本当に不思議な巡り合わせです。発掘は来年以降も続きますので、さらなる発見の知らせを、楽しみに待っています。

(ディレクター 末次 徹)