NHKスペシャル

第1回 ネイマール
"変幻自在"の至宝

アスリートの驚異的なパフォーマンスを生み出す肉体と精神。その秘密に最新の特撮技術を駆使して迫り、人間の「可能性」を探求してきたシリーズ「ミラクルボディー」。今回初めて個人競技ではなく、団体競技に挑む。取り上げるのは6月にブラジルで始まるサッカー・ワールドカップの注目選手たちだ。
ブラジル代表のスーパースター・ネイマール。敵に合わせて変幻自在に繰り出すドリブルやシュート、その“究極のプレー”はどのように生み出されているのか。今回、ネイマールへのモーションキャプチャーが世界で初めて許可された。敵を次々抜き去り、脅威を与える代表格のドリブル。「どう相手を抜くかは予め決めていない、全ては敵次第」敵の動きを正確に察知する独自の“敵重視型”のドリブルはどのように行われているのか、徹底分析する。
2013年ブラジル開催のコンフェデレーションズ杯で世界に印象付けたシュート。国際試合の成績は47試合30得点(3月5日現在)と1試合平均だとメッシをも上回る。驚異的な決定力はどのように生み出されるのか、足先感覚を解析する脳科学も駆使して、その秘密に迫る。
対戦相手はコンフェデ杯での大活躍を受けて、徹底した“ネイマール潰し”に出る中で、その“敵対行動力”で進化を遂げていこうとするネイマール。最高峰の舞台に挑む姿を見つめる。

放送を終えて

番組では、ネイマール選手の変幻自在なドリブル、シュートの凄さを紹介し、スーパープレーが生み出される秘密に迫りました。本人や関係者、今回協力してくださった研究者の方々に話をうかがう中で少しずつ明らかになっていったのは、「最初から凄い選手だったわけではない」ということです。体格に恵まれず、圧倒的なパワーやスピードがあるわけでもなかったといいます。それでも、父やコーチの言葉に耳を傾け、努力を怠らなかったこと、プレッシャーに負けない精神的な強さを持てたこと、それらが現在の「ネイマール」を形作ったのだと感じます。小さいころ、コーチが求めたことだけでなく、「求めた以上のことを常にやって驚かせてくれた」と恩師のベッチーニョさんは話してくれました。練習にかける熱心さも人一倍だったといいます。ネイマールが類まれな力を手にしたのは、決して自然発生的な「ミラクル(奇跡)」ではなく、親やコーチの導き、そして本人の努力、困難に立ち向かう勇気があったからこその「必然の奇跡」だったのだと取材を終えた今、私は思います。
もう一つ強く感じたのは、自らの持っている力をどう生かすのか、ということをネイマール選手が意識していることです。決して万能ではない自分自身がピッチ上で輝くためにどうするのか、その答えは「相手の予想の裏をかく」ことをドリブルでもシュートでも追求すること。自分の特長をよく理解し、それを生かしていく。この考え方は、サッカーでなくても大切なことなのではないかと考えさせられました。

今月始まるワールドカップは、ネイマール選手にとって、おそらくこれまでにないほど大きいプレッシャーを感じる舞台です。活躍できるのだろうかという疑問を感じる人もいると思います。私も少し心配になったこともありました。ただ、ネイマール選手は、どんな試合でも「楽しむ」ことを忘れず、これまで結果を残し続けてきましたし、取材中に脳科学者の先生が教えてくれたことも思い出すと、心配というよりはむしろ期待が膨らみます。
「よりプレッシャーの大きい環境に身を置き、それを乗り越えることで脳は進化する」。この言葉からすると、ネイマールはワールドカップの試合を通じて、更なる高みに上っていってくれるのかなと思えてきました。

世界最高峰の舞台で、ネイマール選手がどんなプレーで相手を、そして私たちを驚かせてくれるのかとても楽しみです。

(ディレクター 内田佑磨)