NHKスペシャル

あの日 生まれた命

多くの命が失われたあの日、被災地で100を超える新しい命が誕生していた。
不安に押しつぶされそうになりながら、津波で水没しかけた病院で産んだ母親。混乱の中で「産まれた子は幸せなのか」と自らに問い、答えを出すこともできない母親。大切な人を亡くした深い悲しみの中で、自分だけが子どもを授かった喜びを感じることに罪悪感すら感じてしまう母親。それでも「我が子の笑顔を守りたい」という思いで、家族はさまざまな困難を乗りこえ、強くなった。絶望の淵から這い上がろうとする被災地の人たちに見守られながら、子どもたちは3歳の誕生日を迎える。番組では、未曽有の大災害の中で生まれた命を守り抜いてきた家族たちの3年と未来への希望を見つめる。

放送を終えて

東日本大震災の当日、被災地で生まれた命がありました。そして、その命を守るため、無数の優しい手が差し伸べられていました。極限状態の被災地で、自らも被災した人たちが小さな命の誕生を守り抜いていたと聞いたことが取材の始まりでした。
「多くの命」が失われた東日本大震災。
失われたのは一人一人の命であり、それを見守ってきた家族の思い出であり、将来でした。その「3月11日」に子どもを授かった家族は、誕生の喜び、成長の嬉しさを素直に現すことができず、一方でたくさんの命が、同じ瞬間に奪われたことに心を痛め、今も苦しみを抱え続けています。3年が経ちようやく心の内を語ることが出来るようになったという家族も少なくありません。番組に寄せられた手記は51通。そのひとつ、ひとつに3年間のそれぞれの歩みが記されていました。
3年を経た今、「あの日」生まれた小さな命はたくましく育っています。
強い生命力で生き抜き、ひたすらに前を向いて歩み続ける子どもたちの姿が、逆境にある全国の人たちへ、少しでも勇気をお届けできたならば幸いです。
そして、私たち大人は、これから子どもたちの生きる将来の日本をどう守っていくのか。明るい未来を子どもたちに見せてあげることが出来るのか。
子どもたちのまっすぐな瞳に問いかけられているようでもありました。
ディレクター 吉楽禄