NHKスペシャル

無人の町の"じじい部隊"

帰還困難区域(旧警戒区域)の現場にテレビカメラが初めて長期にわたって入り、継続取材したドキュメント。厳重にゲートで閉ざされた福島県大熊町。退職したばかりの町の元最高幹部たち6人からなる自称“じじい部隊”が、無人となった町を飛び回る。防護服に身を包み、防犯・防火のパトロールを行い、一時帰宅の住民を扶助、除染作業を監視し、山川でセシウム値を計測…。将来の住民帰還が不可能にならないよう、「無人の町」の留守を守り、町の復興・帰還計画をけん引しているのだ。「全員帰還」から「移住支援」に舵を切り始めた政府。「帰還」VS「移住」に分かれる住民。苦しい状況の中、今日も自ら最前線に立つ元最高幹部たち。番組では、四季を通じて“じじい部隊”の活動を追いながら、これまで断片的にしか伝えられてこなかった帰還困難区域の全貌と現状を伝える。

放送を終えて

原発事故で避難する自治体の中で最も福島第一原発に近い大熊町。放射性物質で汚染されフェンスで封鎖された「無人の町」は、今どうなっているのか。帰還困難区域で初の長期取材のなかで、様々なことが見えてきた。人が消えた市街地で激増し、わが物顔で往来するイノシシなど野生動物。雑草や倒木で覆われ通れなくなった道路や近づけなくなった家屋。毎時10~50マイクロシーベルトを越す高線量の地区が広り、がキノコからは国の基準の600倍を超すセシウムが検出される。やっかいな放射能との戦いは終わりが見えず、子育て世代の住民の多くはすでに移住の決意を固めている。事故から三年を迎え、町は急速に朽ちていくようだった。一方、帰還を望む住民たちも多く、町の留守を託された“じじい部隊”は、困難な状況の中で懸命の活動を続けていた。汚染水流出を間近で監視し、汚染水を減らす独自の調査を東京電力にもちかけ実現。さらに、将来の住民帰還につなげるため、線量の低い地区から除染を始め居住ゾーンを徐々に拡大する復興計画を、役場の後輩らとともに進めている。取材の中で、「帰還困難」とされる町であっても、比較的線量の低い地区はあり、そこに希望を託す人々がいることを知った。放射線に関する判断は人により様々で“じじい部隊”の活動にも様々な見方があるだろう。だが、現状を国や東電まかせにせず自分たちの手で調べ、将来の帰還に向け今できることを一つずつやる“じじい部隊”の姿勢に、最悪の困難の中でも決して諦めず立ち向かう人間の底力を感じた。

仙台放送局ディレクター
新延 明