NHKスペシャル

宇宙生中継 彗星爆発 太陽系の謎

巨大彗星になることが期待されていたアイソン彗星は、29日未明、太陽に最接近し、大部分が崩壊してしまったと見られている。いったい何が起きたのか?
国際宇宙ステーションに滞在中の若田光一宇宙飛行士は、超高感度4Kカメラで崩壊前の彗星や美しい地球の姿を撮影していた。
生中継で夜の地球の絶景の上を進む国際宇宙ステーションと結びながら、最新の科学が解き明かす太陽系の謎、そして地球や生命誕生のロマンに迫る。

【出演】
司会:タモリ・久保田祐佳アナウンサー
スタジオゲスト:東野幸治・大沢あかね
解説:渡部潤一(国立天文台教授、副台長)

放送を終えて

自然は、時として、筋書きのないドラマを私たちに見せてくれます。まさしく自然現象であるアイソン彗星は、たぐいまれな激動のドラマに私たちを立ち会わせてくれました。
昨年9月に新発見されたアイソン彗星は、太陽の間近にまで迫る軌道から、世紀の大彗星になると多くの科学者が予測しました。それは今年11月29日の太陽最接近でコロナの中を通り抜けた後。太陽からの強烈な熱と光を受け、天空に長大な尾をなびかせるというのです。しかも同じ時に若田光一さんが国際宇宙ステーション(=ISS)に滞在するのです。そこでNHKはJAXAと協力して、世界初の宇宙用の超高感度4Kカメラを準備し、この天体スペクタクルを撮影・生中継するプロジェクトを始めました。夏8月には撮影機材を種子島からH2BロケットでISSへ打ち上げ、11月にはソユーズで若田さんが宇宙へ出発。そして、あの彗星の太陽最接近の日を迎えます。

ところが11月29日、太陽最接近でアイソン彗星の大部分は崩壊。専門家たちの予想は裏切られ、アイソンは大彗星なるどころか失われてしまいます。当初予定していたような、“国際宇宙ステーションと生中継で結んで、大彗星との遭遇という壮大な宇宙のスペクタクルを宇宙と地球とで共有する”という番組はできなくなりました。

このとき番組制作陣は考えました。たしかに壮大な天体ショーは、まさに目前で消え失せた。しかし今、私たちの目の前で起こっていることは、最新科学をもってしても予想し得なかった尋常ならざる事態だと。彗星崩壊という、大彗星の目撃以上に貴重な瞬間に立ち会っているのだから、そのこと自体を描き、その中に含まれる意味を伝えるべきだと考えたのです。
彗星崩壊の11月29日から、放送日までは僅かに5日。その間に、彗星崩壊に立ち会った研究者たちを取材し、それをもとに崩壊の詳細をCGで映像化、司会のタモリさんとスタジオの方針を話し合い、さらに若田さんとの宇宙生中継とをあわせて今回の番組の形が出来上がっていきました。

もし当初の筋書き通り、天空に巨大な彗星の姿を見ることができれば、確かに感動的であったことでしょう。しかし、今回予想とは異なる物語の中で、アイソン彗星というものと向き合えたことは、実はたぐいまれな機会との出会いであったと感じています。この宇宙が、予想を遙かに超えたダイナミックで変化に富んだ“荒ぶる世界”であること、その荒ぶる宇宙の中に我々は住んでいることを、眼前で見せてくれたのですから。
自然の筋書きのないドラマに、より深い含意を見いだすことのできた番組でした。

チーフプロデューサー
北野和宏