NHKスペシャル

認知症800万人時代 助けてと言えない
孤立する認知症高齢者

今年1月放送したNHKスペシャル『終の住処はどこに~老人漂流社会』は、高齢者が3000万人を超え、介護施設に入れず、居場所を転々とせざるを得ない厳しい現実を伝えた。今、さらに事態を深刻化させているのが「一人暮らし」で「認知症」を患う高齢者の急増だ。「助けて」と、SOSを発することもできず、周囲も気づくことができない。徘徊やゴミ屋敷などによって顕在化しても、すでに認知症が悪化し意思が確認できないため、介護サービスに繋げることができないのだ。番組では、連日通報が寄せられる『地域包括支援センター』に密着。ごく当たり前の人生を送ってきた高齢者が、救いの手が差し伸べられないまま放置され、“漂流”していく実態を追う。さらに、社会保障費を抑制せざるを得ない今、どうしていくべきか。現場の模索を追う中で解決へのヒントを探る。

放送を終えて

居場所を持てず、介護施設や宿泊所を転々とする高齢者たちの実態に迫った「老人漂流社会(今年1月放送)」。今回の番組では、こうした問題をさらに深刻にさせている「認知症」についてクローズアップしました。
判断能力が低下し、自宅で独り暮らしが難しくなったお年寄りを取材すると、自分の老後をどこで、誰を頼りに暮らしていくのか、選べない状況に陥っている場面にたびたび遭遇しました。自らSOSを発することもなく、介護保険制度などの公的なサービスを一切、受けていない人も増え続けています。
その一方で、認知症というと、どこか「近くて遠い」問題で、自らに差し迫った問題だと受け止めてこなかった方も多いのではないでしょうか。私自身もそうでしたが、家族や親族に認知症になることを不安に思う高齢者がいても、自分自身の問題としては捉えてきませんでした。認知症という病気に対する誤解もその一因かもしれません。かつては、認知症=「何もわからなくなる」病気だと“誤解”してきました。
しかし実際に取材してみると、軽い症状の段階では、「自分で病気の自覚がある」ことを強く感じました。認知症で最も苦しんでいらっしゃるのは介護する側でも、支える社会でもなく、ご本人たちです。そのことを知ったとき、認知症は私にとってとても身近な問題として迫ってきました。
では、認知症になったとき、そばに支える人がいない独り暮らしの人や、高齢者だけで暮らす世帯を誰がどう支えるべきなのか。今、自分でできることを考えてみると、①老後のことを家族や周囲の人たちと事前に話し合っておく②兆候を自覚したとき、できるだけ早期に医療・介護につながれるよう、備える③自覚できない段階になった時には、家族や周囲の人に専門の施設で治療を受けられるように頼んでおく・・・。
認知症は早期発見や予防の取り組みなどで、症状の進行を遅らせることができる種類のものもありますし、介護サービスなどをうまく組み合わせて、住み慣れた自宅で長く暮らし続けている方もいます。
番組をご覧になっていただいた方々に「家族や自分自身のために今できることは何か―」
それを考えるきっかけとしていただけたなら、担当者として嬉しい限りです。

ディレクター 原拓也