NHKスペシャル

あなたは未来をどこまで知りたいですか ~運命の遺伝子~

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がんのリスクを減らすためとして、乳房を切除する手術を受けた。その鍵となった「遺伝子診断」が、今大きな注目を浴びている。実は、遺伝子診断は、ここ数年で急速に私たちの身近に広がり、様々な分野で活用され始めている。
遺伝子は“生まれ持った人生の設計図”とも言われている。一体何が分かり、私たちにどんな未来がもたらされるのか。最先端の研究現場を訪ね、ひもといていく。大きな成果が出ているは医療現場だ。肺がんの原因遺伝子が発見され、新薬によって、この遺伝子を持つ患者の9割が回復を見せている。更に、認知症や糖尿病など、これまで漠然と体質で片付けられてきた病気のリスクを未然に知り、対策を取ることも可能になり始めた。更に、遺伝子診断があぶり出す私たちの「運命」は、病気だけにとどまらない。中国では、学問・芸術・スポーツの世界で開花する才能があるか否かを遺伝子で判断。それを元にエリートの養成が行われている。アメリカでは、受精卵から180ほどの遺伝子疾患の有無を調べるサービスが開始された。数年後には、受精卵から、遺伝子疾患以外の病気のリスクや、容姿、才能などの情報を知ることもできるようになるという。最先端の遺伝子研究に密着しながら、私たちが自分の「運命」と直面させられる“すぐそこの未来”に迫る。

放送を終えて

「遺伝子でなんだかわかるのはなんだか怖い」「遺伝子で、ここまで医療が進んでいることに驚いた、希望が持てる」番組をご覧いただいた方からは、さまざまな反応をいただいております。
「遺伝子は私たちの細胞の中にすでにあるもので、それを知ることで人生が豊かになる社会が訪れれば」と考えながら制作に当たりましたが、こう考えている私の思考も行動も、細胞までさかのぼれば、遺伝子が生み出した物質の営みのなせる業であると考えると、とても不思議な気持ちになります。
日進月歩の科学にどう私たちが応えていくのか。難しいですが、避けては通れない問題に対して少しでもヒントになっていれば幸いです。

ディレクター 中井 暁彦

私が学生時代の頃に放映された「GATACA(ガタカ)」という映画がありました。遺伝子による格差社会を描いたSF映画です。遺伝子が分かると何だか怖いことになるなぁと感じたのを記憶しています。しかし、今回の取材を通して、遺伝子研究の進展によって、医療に劇的な進歩がもたらされる現場を目の当たりにしました。がんの原因遺伝子を突き止め、その働きを抑える治療。治療不可能とされていた難病の原因を突き止め、治療方法を見いだす全遺伝子解析。遺伝子解析技術の使い方を間違わなければ、私たちの暮らしや生き方をより良くできるのだと思います。
遺伝子解析技術とどのように付き合っていくのか。自分の人生にどのように活用していくのか。さまざまな遺伝子検査が身の回りに登場している中、私たち一人一人が考えていく必要があると感じました。

ディレクター 土山浩之