NHKスペシャル

ヒマラヤ8000m峰 全山登頂に挑む

ヒマラヤに存在する14の8000mを超える山々。今年、これまで日本人が誰も成し得なかった、この14座全山登頂という偉業を成し遂げた登山家がいる。竹内洋岳さん(41)。
18年前、初めて8000m峰に登頂成功以来、今年、最後に残った世界第7位のダウラギリ峰(8167m)に挑み、悲願を達成した。世界最高峰エベレスト(8848m)を始めとする8000m峰14座は、「神々の座」と呼ばれる。全てを個人で登りきることは不可能とされていたが、1986年イタリアの超人ラインホルト・メスナーが世界で初めて達成。現在までに世界15カ国、27人が全山制覇を成し遂げているが、日本からは達成者が出てこなかった。これまでに挑んだ日本人登山家は、いずれも10座を前に遭難、夢破れてきたのだ。
「8000mの世界は、人間が存在してはいけない過酷な場所」と語る竹内さん。雪崩の危険、氷点下20度以下、酸素は平地の3分の1という条件の中、美しくも厳しい自然に挑んだ竹内さん。番組では14座最後の挑戦に密着。その軌跡を通して、ヒマラヤに魅せられてきた登山家の生き様、そして挑戦し続ける思いを描く。

放送を終えて

この番組をご覧頂いた方の中には、地球上に標高8000メートルを越える山が14あり、その全ての頂を目指す登山家がいるという事を知って驚かれた方も多いと思います。日常生活の中では想像出来ない世界が、この地球上にはまだたくさんあります。それが酸素が平地の三分の一以下という標高8000メートルの世界です。そこに挑むことは、一体どういう体験なのか。竹内さんは、「息を止めて池や渕の底に触れて、息が続く間に浮かび上がる」、「歩いて宇宙に行くようなもの」と表現してくれました。
今回竹内さんは、かつて自分を助けてくれた仲間や登山中に亡くなった先輩たちへの思いを胸に、最後の頂となるダウラギリに挑みました。周到に計画を練り、仲間の力も借りて天候を見極め、冷静な判断を積み重ねて頂に立ちました。闇夜の下山という想定外の危機も乗り切り「登って、無事に帰ってくる」という目標を果たしました。その過程を通して、竹内さんの人間としてのすごみを感じ取ってもらえればと思います。
驚かされたのは、体力・気力を全て使い果たして下山したはずの竹内さんが言った、「また次だな」。これからどんな夢に向かって登り続けるのか楽しみです。

ディレクター 廣瀬 学