NHKスペシャル

シリーズ日本新生 "死者32万人"の衝撃 巨大地震から命をどう守るのか

いま全国各地で、巨大地震・津波の新たな被害想定が相次いでいる。8月下旬に公表された南海トラフ巨大地震のシミュレーションでは、地震直後に最大34mの大津波が襲い、死者の数は最悪の場合32万人を超えるとされた。東京都が公表した「首都直下地震」の新想定では、家屋の倒壊や火災で1万人近くが死亡。北海道でも、太平洋の巨大地震で30mを超える津波が押し寄せ、壊滅する町も出るとされた。
こうした想定の背景にあるのが、東日本大震災への反省から打ち出された防災対策の大転換。国は“考えられる最大の被害”を公表し、避難を通じて一人でも多くの人命を守る『減災』の方向へと大きく舵を切った。しかし、住民からは「どうすればいいのかわからない」と悲鳴があがり、具体的な防災対策を作る自治体や防災関係者には戸惑いも広がっている。
地震の活動期に入り、いつどこで巨大地震が起きてもおかしくないとされる日本。生き延びるために私たちはどうすればいいのか?国、自治体はいま何をすべきなのか?スタジオに集まった専門家や自治体の担当者、防災関係者などの議論を通じて、命をどう守っていくのかを探る。

<キャスター>
三宅民夫
守本奈実
<スタジオゲスト>
京都大学防災研究所教授 矢守克也(やもりかつや)さん
明治大学大学院特任教授 中林一樹(なかばやしいつき)さん
国土交通省総合政策局総務課長 渋谷和久(しぶやかずひさ)さん
危機管理アドバイザー 国崎信江(くにざきのぶえ)さん
地方自治体の防災関係者のみなさん

放送を終えて

「絶対にあきらめない」。今回の番組を制作する中で最も印象に残ったのは、住民の皆さんや自治体関係者の防災に取り組む真剣な姿でした。
震度7の揺れに30mの巨大津波、火災、土砂崩れ・・・。「死者32万人」という南海トラフ巨大地震の新想定は、あまりに衝撃的なものでした。しかし、取材したすべての地域で、命を守るために何が出来るのか知恵を出しあい、模索する現場に出会うことができました。この巨大地震が本当に起こりうるという危機感を絶望に変えず、「できる事から始めよう」と前向きに取り組む姿にたくましさを感じました。
もはや「想定外」は通用しません。最大限の想定が示された以上、私たちはそれに対して備えていかなければなりません。番組内で自治体担当者の方が発言されていたように、「被災地並みの対策」を地震発生前に実行できる法制度・財源などの整備を社会全体で考えていく必要があると思いました。
取材時に住民の方から聞いた、「避難場所の確保さえ難しい現状を全国の皆さんに伝えて下さい」という声に、この番組が少しでもお役に立てていれば幸いです。

NHK高知放送局ディレクター 石田紀一郎


「巨大津波にどう立ち向かうのか」。
これは、東日本大震災、そして南海トラフ付近の巨大地震による津波の新たな想定の発表によって、沿岸部の行政・住民はもちろん、取材をする私自身にも改めてつきつけられた問いです。
今回の番組の中で、静岡県下田市のパートでは、この問いに答えるためのヒントを1つでも探りたいという思いで取材をスタートさせました。沿岸部の住民に実際に地震が起きたと仮定して避難行動を再現してもらった上で、専門家のシミュレーションを元に、どう避難すればいいのか考えました。その結果、安否確認や避難準備などをせず、揺れが収まったらすぐに避難を始めることで多くの命が助かることがわかりました。番組の放送後、住民の方々と改めて話をしました。多くの人が「すぐに逃げることにした」「何もせず早く避難するよ」と言ってくれました。いつ襲ってくるかわからない巨大地震と津波。「その時」に、1人でも多くの人の命が助かればと願ってやみません。
しかし、この「早く避難を始めること」は、冒頭の問いに対する答えの1つにすぎません。避難先となる高台が近くにない、道路が家屋倒壊でふさがれる恐れがある、お年寄りや体の不自由な人の避難をどうするのか・・・まだまだ課題は山積みです。「巨大津波にどう立ち向かうのか」。この難問に対する1つでも多くのヒントを見つけられるよう、これからも取材を続けていきたいと思います。

静岡放送局 記者 島中俊輔