NHKスペシャル

今ふたたび 日本のがん医療を問う

国が、がん対策を進めるために定めた「がん対策基本法」が施行されてから5年。地方と都市の治療格差を解消するため、各地に拠点病院が整備され、「日本のどこでもがん治療が受けられる」ようになった。しかし、NHKが今回、がん患者やその家族2千人を対象に行ったアンケートでは、「自分の治療が正しいのか分からない」「治療にお金がかかり過ぎて困っている」など様々な不安の声が寄せられた。
この5年で日本のがん医療は、どれだけ変わったのか? NHKでは、専門家とともに、48万人の治療データを分析。病院ごと、地域ごとの治療実態に迫った。その結果、拠点病院においてすら、科学的に効果が高いと証明された治療・「標準治療」の実施に、ばらつきがあり、未だに「治療格差」があることが分かった。また、がん治療が進歩する一方で、治療費用が高額化し、飲みたい薬が飲めない現状や、最新のがん治療薬である「分子標的薬」の開発が国内では進んでいない現状も浮かび上がってきた。医療の進歩や、拠点病院の整備が進む一方で、取り残される患者たち。がんが国民病となる中で、様々な課題にどう向き合っていくのか。専門家や患者とともに、考えていく。

放送を終えて

タイトルに「今ふたたび」とあるように、NHKスペシャルでは、これまで日本のがん医療を検証する番組を継続して放送してきました。
2005年から06年にかけて、都市部と地方で受けられる治療に格差があり、海外で使われている薬が日本の患者には届かない実態などについて放送。その後、国が本腰を入れてがん対策に乗り出し、「がん対策基本法」を制定する契機となりました。

<シリーズ 日本のがん医療を問う>
“救える命”を救うために
がん死亡率は下げられる~早期発見・予防の国家戦略~
<シリーズ 日本のがん医療を問うⅡ>
第一夜 格差をなくすために
第二夜 がんの苦痛はとりのぞける

国のがん対策はどこまで進んだのか。改めて検証してみると、施設は充実したけれど未だ満足できる治療を受けられず苦しむ患者・家族の方々が数多くいらっしゃることが明らかになりました。今回わたしたちが取り上げたテーマは、専門医の偏在、不十分なデータ収集の仕組み、置き去りにされてきた希少がん対策、立ち後れる新薬開発など、多岐にわたります。そのひとつひとつについて、厚生労働大臣や国立がんセンター理事長から具体的な日程も含め改善することを約束していただきました。よりよい「がん医療」が実現されるきっかけになればと、期待しています。
ひとつのテーマを継続して検証する大切さを痛感し、今後とも取材を続けていく所存です。

ディレクター 天野直幸