NHKスペシャル

産みたいのに 産めない ~卵子老化の衝撃~

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いま、全国の不妊治療クリニックに、30代、40代の女性たちが次々と訪れ、衝撃を受けている。健康なのに、妊娠の可能性が低いと告げられるのだ。原因は「卵子の老化」。
女性の卵子は年齢とともに年を重ね、35歳の女性が出産できる可能性は20歳代の半分になる。
しかし、多くの女性はこの事実を治療に来て初めて知るという。
晩婚化が進む現代、不妊は先進国共通の課題だ。しかし、日本は特異な状況にある。
不妊の検査や治療を受けたことのある夫婦は、6組に1組。
不妊治療専門のクリニックが世界一多く、体外受精の実施数も世界一になっている。
女性の社会進出を進める一方で、いつ産むのかという視点を見過ごしてきた日本のひずみが現れている。
「卵子の老化」による不妊をさらに深刻化させる一因は、男性側にもある。
実は、不妊の原因の半分は男性側にあるが、夫が不妊の検査に行きたがらず、ようやく治療が始まった時には、妻の卵子が老化しているというケースが後を絶たない。
専門家は「早くに気付いて治療すれば、自然妊娠が見込めるケースも多い」と指摘する。
番組では、全国の医療機関と不妊治療経験者を対象に、大規模なアンケート調査を実施。
“不妊大国”ニッポンの姿を明らかにする。そして、これまで個人の問題ととらえられてきた不妊が、実は、社会で向き合わなければ解決できない実態を浮き彫りにする。

放送を終えて

「若い人たちに、自分と同じ思いをして欲しくない」。取材に応じて頂いた方々が口をそろえておっしゃっていた言葉です。親にも、兄弟にも、友人にも打ち明けられない不妊治療。涙ながらにお話頂いた苦しみの声が、どうすれば多くの人の心に届くのか。悩み抜いた日々でした。
また、アンケートで寄せて頂いた8000人を超える人々の声。一枚一枚に、壮絶な叫びが込められていました。番組スタッフで何度も読み返すうちに、不妊が急増する社会の背景、さらに夫の無関心によって広がる不妊の実態が浮かび上がってきました。
卵子が、老化する。その事実を直視する番組は、ともすると多くの人を傷つけかねません。2月に同じテーマで放送した「クローズアップ現代」のときもそうでしたが、編集室では何度も議論を繰り返しました。
「卵子の老化」を知らないことで、広がってしまう不妊。一方で、知っていたとしても簡単には妊娠・出産することができない、私たちの社会。「産みたいのに産めない」。そんな叫びを一つでも減らすことができるよう、卵子の老化について多くの人々が考える契機になれば幸いです。またご協力頂いたたくさんの方々に、この場を借りてお礼申しあげます。

ディレクター 丸岡裕幸