NHKスペシャル

震災を生きる子どもたち ガレキの町の小さな一歩

3月11日の大震災で町長が犠牲になるなど、大きな被害を受けた岩手県大槌町。5つある小学校のうち、4校が被災。唯一犠牲者が出たのが大槌小学校だ。特に6年生は、クラスメイトを失っただけでなく、家族を失った子どもも少なくない。子どもたちの生活は被災地の写し鏡だ。慣れない仮設暮らし。自宅を流された子どもはクラスの半数に及び、親が仕事を失った10人以上の子どもが転校した。しかし、かつてない現実に直面しながらも、子どもたちは笑顔を絶やさない。朝、ガレキの町を通り、仮校舎にやってきて仲間に会うと、笑顔が弾ける。子ども同士、傷ついた心を必死に支え合おうとしている。
NHKは、震災直後から、大槌小学校の子どもたちを記録してきた。次々と突きつけられる過酷な現実を乗り越えようとする子どもたち。懸命に前を向こうとする子どもたち。その姿が、逆に周囲の大人たちを“支え”ている。震災から1年。6年生は仮の学び舎で、卒業そして進学という大きな節目を迎えた。ガレキとなった町で、小さな一歩を踏み出そうとする子どもたちの姿を通して、被災地の現実と「希望」を綴りたい。

放送を終えて

今回の取材で最もつらかったのは、「分からない」という事でした。震災で何らかの傷を背負った子供たちの胸の内に立ち入れる訳もなく、震災のことはずっと聞けずにいました。なるだけ子供たちと同じ目線に立って、同じ時間を共有して、どんなことを考えているのか、ひたすら考える1年でした。
取材する内に子供たちと仲良くなり、自宅などに伺うようになると、親や親戚などの大人に、「あの子は今、何を考えているんですかね?」と聞いてみます。すると、ほとんどの答えが「分からない」というものでした。地域の大人たちも、子供の震災の傷にどう触れていいか分からず悩んでいました。
本来、取材はひとつひとつ積み上げていって、ようやく答えが見えてくるものですが、今回はいわばずっと闇の中。どんな答えがあるのか、ただ想像するだけで、とにかく記録を続けました。
ただ、同じ時間を共有した分、子供たちの素の姿は多く記録できました。そして、最後に子供たちが口にした言葉を聞いて、それまでの記録したものの意味が少しずつ理解できていきました。本来とは逆のプロセスでしたが、教えてくれた子供たちの言葉に、震災を生きる子供たちの胸の内があると信じています。

ディレクター 小川海緒