NHKスペシャル

故郷(ふるさと)か 移住か ~原発避難者たちの決断~

地震、津波、原発事故、そして放射能汚染と4重苦の試練に見舞われた福島県浪江町の人々。原発近隣の双葉郡の中で最大人口の2万1千人が住む家を追われ、仕事を失い「漂流」中だ。着の身着のままで逃げてから1年。地域のつながりは分断され、家族はバラバラとなり、多くの人々は新たな仕事も見つけ出せていない。いよいよ放射線量の高さに応じて、段階別の住民帰還に向けた討議が始まった。しかしここにきてますます、戻るべきか否か、住民たちの混迷は深まっている。戻ることを支えに生きるお年寄り世代と、子供を連れては戻る気のない現役世代。働き盛りの人間なしに地域が成立するのか、町は存続の危機だ。国は何もしてくれない、自分たちの町をどうするのかは自分たちで決めねばならないというのだが、原発を安全と信じ、町の経済の多くを頼り、平穏な日常がいつまでも続くと疑わなかった地方のありふれた町が突然、「民族自決」を迫られる過酷さ。それでも人々は決断し、前へ進まねばならない。
現実の不条理を前に生きる目標を必死に求めた人々の記録である。

放送を終えて

取材を通して何度も考えさせられたのは「決定責任の重さ」でした。
浪江町商工会青年部のなかに、第一子の誕生を間近に控えた男性がいます。その男性は、互いに助け合う仲間がいる浪江町のコミュニティを子供にも残してあげたいと考え、福島県内に留まり復興を担っていこうとしています。子供の健康を考えれば県外に移住するのが正しいのではないかと悩んだ末の決断でした。話を聞いて驚いたのは、その覚悟の仕方です。万が一、被曝によって子供が障害を抱えることになったとしても、その責任を負い、一生をかけて守っていく覚悟で決心をしたと語ったのです。一つの選択をするまでに、計り知れない苦悩と向き合い、リスクを背負っているのだと知りました。
そして、それは青年部の他のメンバーも同じでした。子供のために福島県外への移住を決めた男性は「自分は故郷を捨てた」という自責の念を引き受けていました。また、故郷の復興のため原発の復旧作業に参加する青年は結婚を諦める覚悟だと語りました。理不尽な、押しつけられた試練であるにも拘わらず誰しもが、自らの責任で未来を決し、その重圧と正面から向き合っていました。
果たして自分は、何かを決する際、リスクや痛みという負の側面をどこまで見つめているだろうかと考えさせられました。例えば、原発を稼働させる立場ならば事故のリスク、脱原発を唱えるならば電気を大量消費する生活との決別、どのような選択にも代償があるはずです。そうした現実と本気で向き合い考えを深めねばならないと痛感しました。これからは、後になって誰かのせいにするような無責任な態度は許されない。苦境の真っ直中で次世代のために奮闘を続ける浪江町の人々の姿が、そう問いかけている気がします。

ディレクター:森田哲平