NHKスペシャル

"同日同時刻"生中継 被災地の夜

1年前のその日の夜、大震災から6時間あまりたち、過酷な津波で多くの命が失われた後、人々は冷たい空気のなか、生死の狭間に佇んでいた。
ある人は、屋上の煙突にしがみつきながら消えてしまったわが街を茫然と見下ろしていた…
ある人は濁流の中に取り残されながら突然始まった陣痛と破水に必死に耐えていた…ある人は屋根の破片に乗ったまま数キロ沖の海を漂流し、一人大きな声で歌を歌いつづけていた…。
そこには、理屈では説明できない偶然の重なりがあり、人が人を救う、助け合いの絆があり、苦難の中を必死に生きようとした人間のドラマがあった。
3月11日の同時刻に同じ場所に立つ被災当事者の方々へのインタビューを通して、被災地のそこここで生起した出来事を、生中継によって繋いでいく。大震災から1年という特別な日。日本全国の人々が、被災者の体験に心を重ね、その人の今を知り、大震災とは何だったのかに深く思いを馳せる。
記憶を明日へとつなげていく“同時共有”のためのNHKスペシャル。番組には、この1年被災地を訪ねて来た俳優の渡辺謙さんが出演。被災者の方々の手記を朗読します。

放送を終えて

震災一年の夜、NHKスペシャル「同日同時刻生中継 被災地の夜」を放送しました。この番組は、情報も交通も遮断され、救助の手も及ばなかった「3月11日の夜」、被災した方々はその夜をどう過ごしていらっしゃったのか、当夜の現場に立って生中継で語っていただく、という番組でした。
「夜」という一つのテーマに収れんして、生中継でインタビューを紡いでいくNHKスペシャルは、これまであまりない表現方法であったかもしれません。
この番組は、一年たって、被災した方々の思いを、どれほど、私たちは受け止められているだろうか、伝えられているだろうか、というスタッフの自問自答が出発点でした。
被災者の方々の思いに出来る限り「耳を傾け」、それを可能な限り「共有する」にはどうしたらよいのか、スタッフで徹底して議論した結果、生まれた番組でした。
同時に、被災者の方に、その夜の重くつらい体験を、生中継で語っていただくことの重さについて、真剣に議論しました。
そして、「一年目の夜、現場に立って、語りたいことがある」とおっしゃる被災者の方々に出会い、出演していただくことになりました。放送後、ご出演いただいた皆さんが「語りたいことを伝えられた」とおっしゃってくださいました。そのことに、スタッフ自身が大変力づけられています。
出演してくださる被災者の方だけでなく、出演されない多くの被災者の方々の心を、少しでも伝えるべくその手記やお言葉を「朗読」させていただきました。
この一年、被災した方々へ支援を続けてきた俳優の渡辺謙さんが朗読をしてくださいました。当日、現場にいること、被災者の方たちに寄り添うこと、心を寄せることを何よりも大切になさった渡辺さんの思いは、被災した方々のお心にも届いたのではないかと感じています。
出演してくださった方、そして朗読でご紹介した方、さらにそのまわりにいる何万何十万という被災した方々。3月11日の夜、想像を絶する孤独と恐怖の中にあった人たちの多くが、「闇の中で、生きるための“光”を探し続けていた」という事実に、私たち自身が、心を深く揺さぶられています。
番組でご紹介した被災した方々の言葉、表情が、視聴者の皆さんの心に深く残ることを、それが「3月11日を忘れない」ための一つのきっかけになることを、心から祈っています。

ディレクター:右田千代