NHKスペシャル

ラストメッセージ 第3集 「愛と怒りと 映画監督・木下惠介」

戦後日本を代表する映画監督、木下惠介。「家族の愛」「弱きもののささやかな幸せ」に生涯こだわり続けた木下は、「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾歳月」などの作品によって戦後の大衆の圧倒的な共感を得た。現在その名が語られることの少ない木下だが、1998年に亡くなった時、愛弟子であった山田太一は弔辞でこう述べている。「あるとき木下作品がみるみる輝き始め、今まで目を向けなかったことをいぶかしむ時代がきっと来ると思います」
木下の原点は愛情あふれる家族と過ごした少年時代にあり、今回、木下が家族を撮影した戦前のフィルムを発掘した。彼自身の体験は作品の随所に反映され、「弱きものが美しい」社会とは何かを語りかける。高度経済成長・核家族化の時代の流れの中で映画を撮れなくなった木下は「衝動殺人 息子よ」で家族愛を描いて復活、晩年の「この子を残して」は戦争を庶民の幸せを壊すものと訴えて白鳥の歌となった。常に「庶民=弱きもの」に寄り添っていたその格闘の人生は、弱いものが切り捨てられ強者の論理に流れがちな現代社会に疑問を投げかける。木下の言葉と残された映画作品を通して、今の日本人が失っているものは何か、共に生きる社会とは何かを問う。

案内役:国井雅比古アナウンサー