NHKスペシャル

論文捏(ねつ)造 夢の医療はなぜ潰(つい)えたか

アルツハイマー病や脊髄損傷など、難病治療の実現に大きく近づいたと世界中の注目を集めた論文が去年5月、科学誌「サイエンス」に発表された。“夢の細胞”と言われる「ヒトクローンES細胞」を作成したという画期的な科学論文である。ところがおよそ半年後、全てがねつ造であるという前代未聞の疑惑が持ち上がった。研究チームの代表は、韓国で国民的英雄ともてはやされたファンウソク・ソウル大教授。国民の期待を一身に受けていただけに、一大スキャンダルに発展した。

しかし、事件の真相は未だ謎に包まれている。なぜねつ造は起こったのか?誰がどんなねつ造を犯したのか?なぜ誰にも気づかれなかったのか?取材班は疑惑発覚直後から、関係者へのインタビューを試みた。8ヶ月にわたる取材から浮かびあがってきたのは、生命科学研究を巡る世界の研究者間の熾烈な競争、驚くほど簡単にできてしまうデータのでっちあげ、科学者の“ウソ”を見抜くことの出来ない論文審査の制度…。そしてこのほど明らかになった検察報告書を読み解く中で、事件の始まりが、あるたった一つの“ミス”だったことを突き止めた。

最新の治療技術を待ち望む難病患者を始め、世界中の人々を裏切り、世界の再生医療研究に計り知れないダメージを与えた論文ねつ造。事件の深層を追う。