NHKスペシャル

ユリばあちゃんの岬

今年7月、ユネスコの世界自然遺産に登録された北海道知床半島。道もなく、険しい断崖が続く半島の先端部には、“番屋”と呼ばれる漁師たちの作業小屋がある。その数、およそ20軒。毎年、春から秋までの間、漁師たちは、番屋に移り住み、豊かな海の恵みを授かって生活している。
藤本ユリさん(79歳)は、30年以上前から毎年、知床岬の番屋に移り住み、たった一人で寝泊まりしながらコンブ漁を行っている。強い波が来ると海岸には、ちぎれたコンブが打ち上げられる。ユリさんは、毎日、黙々とコンブを拾い、玉砂利の上で乾かす。番屋には、水道も電気も電話もない。沢の清水を引き、海鳥が追い立て浜に打ち上がったイワシで食事を作る。そして、流木を燃やして五右衛門風呂を沸かし、ランプの灯りで夜を過ごす。嵐や凶暴なヒグマの脅威と戦いながらの生活が続く。しかし、ユリさんは、どんなに便利な都会の生活よりも知床の番屋暮らしが一番だという。「ここに一人で暮らしていると、自分は生きているんだと思う」。知床の大自然は、79歳の年老いた女性に、みずみずしい“生きる実感”を与えている。
番組では、“地の果て”知床岬の番屋に、たった一人で過ごす、藤本ユリさんの春から秋までの4ヶ月を通して、知床の大自然の魅力を伝える。

  • 知床の浜でコンブ拾いをする藤本ユリさん
  • 藤本ユリさん