「人工知能の進化」を、圧倒的な思考スピードを誇る、天才・羽生善治さんはどう見ているのでしょうか?
2週間以上にわたる取材を終えた羽生さんは、

「人工知能は進化していると思っていたし、聞いてはいたけれど、そのスピードが尋常ではない。いろんな経験を積んで、たいていのことには驚かなくなったけど、これには本当に驚いた。」と話しています。

少々のことには動じないように見える、精密機械のような羽生さんが驚くのだから、相当なレベルです。そして毎日のように、発表される人工知能開発の成果…。今も進化を続け、そしてモンスターとも言うべき人工知能が登場しました-。

今年3月、囲碁の世界で、衝撃が走りました。
グーグル傘下のディープマインド社が開発した、人工知能「アルファ碁」が、世界最強と言われる囲碁棋士、イ・セドルさんを圧倒したのです。彗星のごとく現れた、人工知能「アルファ碁」、開発にかかったのは、わずか2年だといいます。

羽生さんと一緒に、生みの親である、天才科学者デミス・ハサビスさんを訪ねました。ハサビスさんは、10代の頃から天才プログラマーとして名をはせ、16歳の時、飛び級でケンブリッジ大学に入学を許されたという頭脳の持ち主。今後の人工知能研究は、ハサビスさんを中心に回っていくと言われています。
羽生さんが、ハサビスさんに聞きたかったのは、

「コンピューター囲碁が強くなるには、あいまいな局面での正しい判断、人間で言う“直感”のようなものが必要。その壁は越えたのか?」ということ。

コンピューターサイエンスと脳神経学を究めた男が作った「アルファ碁」は、脳の仕組みを真似たプログラムを完成させ、数千万局という膨大な経験を積ませることによって、人間にしかないと言われた「直感」を見事に再現していました。計算速度で勝負してきたそれまでの人工知能とは次元が違います。
「アルファ碁」は、盤面を見ただけで、次にどの手を打てばいいのか、勝てそうな石の位置を割り出します。すべての手を分析し、展開を考えるのではなく(無限とも言える選択肢のある囲碁では高速コンピューターをもってしても不可能です)、絞った手だけに集中してその後の展開を予測します。その絞った手が、めっぽう良い。これは、羽生さんが、将棋でやっていることと似ています。あらゆる対局棋譜をみて、考えられる手を即座に絞る。これが「直感」の真骨頂だといいます。

「アルファ碁の強さを体感したい」

羽生さんの思いにハサビスさんが応え、特別に対局が許されました。対局したのは、わずか20手あまりでしたが、羽生さんは、強さの片鱗をつかみ取っていました。

「普通に打っているのがすごい。誰にも教わらずに、囲碁の打ち方を覚えたのは、ある意味人間よりも深く囲碁を理解しているといえるかも知れない。」

1年前、この番組に羽生さんが協力をしてくれることになり、初めて会ったとき、「コンピューター将棋をどう思うか?」とたずねたところ、羽生さんは、

「棋譜を見れば、コンピューターが指しているのか、人が指しているのか見ていればわかる。将棋の美しさでいうと、人間に分がある」と語りました。

あまり人工知能との対局に興味を持っている様子はありませんでした。ところが、先日行われたプロ棋士と人工知能の対局・第1期電王戦の感想は、少しニュアンスが変わっていました。

「序盤から面白い将棋を指している。興味深い」

今、人類最後の砦として羽生さんが人工知能と戦うのではないかと憶測を呼んでいますが(実際のところ、その発信源はこの番組の取材会なのですが…)、羽生さんは、この番組の取材を通じて、人工知能の進化を、身を持って体感しています。その進化のひとつが、強引なまでの計算力という段階を越え、「人間らしさ」を獲得する段階に近づいているということです。「人間らしさ」、つまり直感や創造性を獲得しつつある人工知能。人類最強の頭脳・羽生さんが人工知能と戦ったら…。怖いけれど、ワクワクしますよね。