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地震全般・各地の地震活動

第20回  地震発生確率のランク分け

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授・地震予知研究センター長
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地震発生の確率

地震により被害が起きるのは、強い揺れに見舞われるからです。被害を減らすためには「被害を予測する」ことが重要ですが、その第一歩は「揺れを予測する」ことになります。そして揺れを予測するためには、「揺れの強さ(震度)と頻度(確率)の予測を行う」ことが必要となります(第17回 全国地震動予測地図/平田直)。このため地震調査研究推進本部(地震本部)地震調査委員会は、大きな地震によって強い揺れになる確率をほぼ毎年「全国地震動予測地図」にして公表しています。この確率を計算するためには、地盤の揺れやすさと地震発生の確率とを組み合わせる必要があります。
日本の海域での大地震は、注目している区域で、およそ100年に1回程度発生しますが、陸域の大地震は数千年から数万年に1回程度です。このため、地震発生の確率の数字だけを見ると、海域で発生する地震が重要なように感じられます。

しかし、陸域の地震は人の居住地の近くで発生するため、都市が揺れる確率を評価するためには、陸域の地震を正しく考慮する必要があります。海域ではマグニチュード(M)8程度以上の巨大地震が発生すると被害がもたらされますが、陸域では、1995年の兵庫県南部地震や2016年熊本地震のように、M7程度の地震でも大きな被害が発生します。

つまり、地震発生の頻度と都市までの距離を考慮すると、陸域の地震ではより小さな地震や発生確率のやや小さな地震まで考慮する必要があります。

ランク分けの導入

日本では、地震がたびたび発生して、多くの震災がもたらされています。それでも、特定の地域で大地震が発生するのは100年とか数千年に1回くらいのため、台風の襲来などの毎年発生する気象現象に比べて相対的に頻度は低いと言えます。

特に、活断層で発生する地震の発生確率は、地震の専門家でない人には、低く感じられるおそれがあることが2016年の熊本地震後に改めて指摘されました。そこで、地震調査委員会の活断層の長期評価では、地震発生確率と地震後経過率(※)とを組み合わせた「ランク分け」が導入され、ランクを記号と色で表記することになりました【図1、図2】(*1)。

(※)ある特定の地震が、前回発生した時点から次に発生する時点までの間で、今の時点(評価時点)がどの程度経過しているかを示す割合。平均100年間隔で発生している地震があるとして、前回の地震の発生から60年経過していると0.6に、120年経過していると1.2になります。

海域で起きる大地震(海溝型地震)の長期評価では、活断層による地震と比較して発生確率が高いので、これまで発生確率の数字を使用していました。それでも、例えば「北海道北西沖の確率が0.006~0.1%」と表わされていると、発生確率が低くて安全であるとの誤解を与える可能性があります。そこで、海域で発生する地震についても、活断層で起きる地震の発生確率の表記と類似のランク分けが導入されました【図3、4】(*2)。ただし、陸域で起きる地震と海域で起きる地震を統一的に表現する方法は、まだできていないために、当面の方法として【図3】のようなランク分けが導入されたのです。

なぜ3%とか、26%とかの半端な数字を使うか、不思議に感じるかもしれません。この「今後30年以内に発生確率が0.1%、3%、6%、26%である」という表現は、大まかに言って、「それぞれ約30,000年、約1000年、約500年、約100 年に1回の割合で発生する」ことから用いられています。専門的になりますが、「ポアソン過程(※)に従う事象が30年以内に発生する確率が26%」とは、「約100年に1回発生すること」に対応するということです。

(※)時間的に不規則(ランダム)に発生する事象を、確率変数を用いて記述した最も基本的なモデル。客の到着や故障の発生など、まれに発生する現象の起こる回数を表すモデル化に使われる。

残された課題

地震本部は、海域で起きる地震(海溝型地震)の長期評価、陸域で起きる地震の評価(活断層の長期評価)、全国地震動予測地図など、いずれも「確率」に基づいた評価を公表しています。陸域と海域で起きる地震の発生確率と、地盤の揺れやすさを評価して、それを組み合わせて「強い揺れになる確率」を示したものが、全国地震動予測地図です。

これらは、いずれも危険の度合いを表す情報なので、統一的な表示方法が必要です。けれども、海溝付近と内陸の活断層では、そもそも地震発生の確率がおよそ一桁異なるため、ランク分けを導入するときにも、ランクの区切りとなる確率の値が異なっています。活断層については、最大のランクSは30年以内に発生する確率が3%(約1000年に1回以上発生)を超える場合で、海溝型の地震については、最大のランクIIIは、26%(100年に1回以上発生)を超える場合です。このため、クラスの名称も、活断層ではS、A、Z、X、海域ではIII、II、I、Xとなっています。クラスの配色も異なっています。

もう少し本質的な問題があります。現在、九州地域、中国地域、四国地域、関東地域について公表されている「活断層の地域評価」では、大きな活断層だけでなく、対象とした地域にある中小の活断層や、活断層を形成しない地震活動を評価して、対象とした地域内の地震の発生を評価しています。この評価では、例えば、九州中部でM6.8以上の地震が発生する確率は20%程度であり、海域の地震発生確率と同程度になります(*3)。残念ながら、地域評価についてはまだ、全国全ての地域では完成していません。全国での「地域評価」が完成すれば、陸域と海域で同じ基準でクラス分けができます。

さらに、配色も考慮する必要があります。危険情報を表すとき、一般に「黒」は、最も危険度の高い配色です。例えば、救命医療で用いられているトリアージ・タッグでは、黒は無呼吸群(死亡または救命が不可能なもの)を表しています。現在のクラス分けではXランク(確率が不明)を黒や灰色で表わしています。

このように、地震発生確率のランク分けにはいくつか課題が残っています。しかし、現在の手法で得られる数字だけをみると一見確率が小さいと思われがちな地震発生の可能性を、クラス分けすることによって、「発生の可能性がある」ということを正しく理解できるような試みが始まっていることを、知っていただきたいと思います。

参考文献:
(*1)地震調査研究推進本部(2016)、活断層長期評価の表記見直し
https://www.jishin.go.jp/resource/column/16aut_p4/
(*2)地震調査研究推進本部(2018)海溝型地震の長期評価の広報資料を改善 ~ランク分けを導入~
https://www.jishin.go.jp/resource/column/column_18aut_p10/
(*3)地震調査研究推進本部・地震調査委員会(2013)九州地域の活断層の長期評価(第一版)
https://jishin.go.jp/main/chousa/13feb_chi_kyushu/k_honbun.pdf

(2019年1月31日 更新)