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土砂災害

第2回  平成29年九州北部豪雨災害からの教訓(その2)

執筆者

大野 宏之
一般財団法人 砂防・地すべり技術センター 専務理事 兼 砂防技術研究所長
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現地アンケート調査の実施

平成29年(2017年)7月の九州北部豪雨災害に関して、2018年1月に対面での聞き取り調査を行なったことは前回のコラムで触れました。本コラムでは、2018年6月16日~7月22日にかけて福岡県朝倉市で行なったアンケート調査(※)について述べたいと思います。この調査は朝倉市の広い範囲で実施しましたが、本コラムでは土砂災害がひどかった高木、松末(ますえ)の2地区に絞って調査結果を紹介します。アンケート調査では、高木地区は84人、松末地区は186人、合計で270人の方々から回答を得ることができました。

(※)今回の調査は高木、末松地区以外の地域も含めて東京大学、九州大学、国土交通省、(一財)河川情報センターと合同で実施

調査結果からみる避難の課題と今後の対応

(1)避難行動
この地域は、自治体と協力した防災訓練の実施や住民自らの防災マップ作成など、防災面では先進的な地域と考えられていましたが、豪雨災害時での避難の難しさがアンケート結果から分かりました【図1】。避難した人の割合は全体の35.2%を占めましたが、そのうち被災する前に避難した人は20.0%にとどまり、実際になんらかの被害が生じたり、停電や断水になってから避難した人は15.2%となっています。被害が生じてからの避難は危険ですが、早めの避難がなかなかできなかった状況が読み取れます。

次に「避難のきっかけ」をみると、「近くの河川の水位が上昇していたから」が9.8%、「近くの山で土砂災害が発生していたから」が8.3%、「近くの河川があふれていたから」、「雨の降り方が激しかったから」がともに7.6%となっています。かなり危険な状況になってから避難行動を開始したことが分かります。また、避難準備情報、避難勧告、避難指示で避難した人は1.6%と、極めて少ない実態があります【図2】。

「避難しない理由」で最も多い理由は「いた場所や周辺は被災しないと思ったから」が38.4%となっていて、いわゆる「正常性バイアス」(※)がここでも作用していたことが分かります。次に多かったのは「いた場所の周辺で浸水や土砂災害が発生しており避難する方が危険だと思ったから」が21.2%となっています。すでに逃げ遅れている状況がうかがえます【図3】。

(※)正常性バイアス:何らかの異常事態が起きた時に「これは正常の範囲内だ」と思い込んで、心を平静に保とうとする働きのこと。

(2)避難に関する情報
自治体が住民に避難を呼びかけるために発表する「避難に関する情報」の認知度は低く、それぞれの情報で「避難準備・高齢者避難開始」は全体の6.3%、「避難勧告」は11.9%、「避難指示」は8.9%にすぎません【図4】。避難に関する自治体からの情報の認知度がかなり低い実態が分かります。避難に関する情報は生死に関わる情報なので、この認知度を高める努力が必要です。

また、情報を得た手段を見ると、複数回答ですが、多い順に「テレビ」が43.9%、「防災行政無線の屋外スピーカー」が36.6%、「近くの人などからの連絡(声かけ、電話、メール等)」が29.3%、「エリアメール・緊急速報メール」が24.4%となっています【図5】。

この結果から、テレビやエリアメールを活用するのはかなり効果的と思われます。さらに、地域内での声かけも非常に効果的です。防災情報無線も一定の役割を果たしていますが、聞こえにくい、聞こえないとの意見もあったので改善の余地があると思われます。避難情報はいろいろな手段が同時に機能してもよいので、自治体、マスメディア、地域住民のそれぞれで避難に関する情報が的確に伝わっていくように取り組むべきでしょう。

(3)避難場所、避難経路
今回の豪雨発生前に「居住している地区の防災マップ」を見たことがあり、自宅近くの避難所や危険箇所を把握していると答えた人は35.6%でした。最初に避難した場所は「学校・公民館等の公共施設」、「親戚・知人の家」がそれぞれ20.6%と多く、その次が「近くの家」で12.9%となっており、「指定された避難場所」は12.3%にすぎません。このことからは地域防災計画で定めている行動が、実際にはあまりとられていないことがうかがえます【図6】。

避難にかかった時間は「10分~30分未満」が25.8%と最も多く、次いで「10分未満」が25.2%となっており、30分未満で避難している人が51%と過半数を超えています。一方、120分以上と回答した方が3.9%も存在し、避難場所に到達するのが極めて困難な状況があったことも示しています【図7】。

土砂の流出や洪水氾濫が起こっている最中の避難は、極めて危険です。地域防災計画で定められた避難場所への移動距離が長い場合などは、近くの比較的安全な個人の住宅などを「一時的な避難場所」として決めておくような工夫が必要だと思われます。

得られた教訓とあるべき行動

(1)避難に関する情報を得る
災害が発生する前に、皆さんの地域のハザードマップ等で避難経路や避難場所を確認しておくのが基本です。そして、その情報を得る努力を惜しまないことをお願いします。また、自治体が発表する「避難に関する情報」をどのように入手したらよいか、平常時から知っておくことがとても重要です。

(2)災害が発生してからの避難は危険であることを知っておく
避難行動は、自分と家族の命を守るための極めて大事な行動であることを認識してください。そのうえで、自治体からの「避難準備情報」や「土砂災害警戒情報」が出たら「わが家は必ず避難する」など、避難を開始するきっかけをルール化して命を守る行動をとってください。

(3)避難計画を地域に合った実践的なものに
避難行動を実践的なものにするため、自治体と住民が力を合わせて避難計画を作り、それに沿った訓練を平常時に行うことが大切です。特に避難が難しい谷底平野等の地域では、一時避難場所を地域内の安全で近くの建物にするなど、きめ細かな計画を地域ごとに作り上げてください。そして、それに基づく避難訓練を行うことが必要です。

災害から命を守るために

今回のアンケート結果からは、比較的地域の防災体制が充実している地域でも、実際に避難行動をとることは難しいことが分かりました。正常性バイアスを振り払うのは困難であり、避難しない人が多いという現実も浮かび上がりました。今後、災害も激甚化していくことが想定されています。災害から大切な命を守るため防災意識を高く持ち、防災力を向上させるよう、自治体、住民の協働作業による不断の努力が求められています。

(2018年11月30日 更新)