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土砂災害

第1回  平成29年九州北部豪雨災害からの教訓

執筆者

大野 宏之
一般財団法人 砂防・地すべり技術センター 専務理事 兼 砂防技術研究所長
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九州北部豪雨で被害が発生した要因

平成29年(2017年)7月の九州北部豪雨による災害は、福岡県朝倉市や大分県日田市を含む山間部で集中的に多くの雨が降ったことにより発生しました。総雨量が800mmを超えた地区もあり、また1時間雨量が最大で100mmを超えた地区もありました。これらの数字はまさに記録的なもので、この災害を引き起こした原因です。加えて地質がぜい弱で、特に風化しやすい「花こう岩」類が多く分布する地域であったことも、山の崩壊が多く発生し、土砂の流下が多くなった要因の一つと考えられます。さらに、今回は多くの流木が土砂とともに流れ下り、被害を大きくしたことも特徴的です。

被害の大きかった地域の地形上の特徴として、「谷底平野」とよばれる谷底の平地に人が住んでいることがあげられます。このような場所では、大雨が降った際に河川の急激な水位上昇が起こりやすく、上流や裏山からの土砂が平地部分に流出し、堆積しやすい傾向があります。また水や土砂の流れる位置や幅が変化しやすいため、豪雨時に安全な場所が少なくなってしまうのです。その上、より安全な場所に避難するには川に沿って下流方向へ移動するか、裏山を乗り越えていくしか方法が無いため、移動距離が長くなる、時間がかかってしまうなど、避難行動自体が難しいという問題があります【図1】。

この自然条件と、社会条件(谷底平野に人が住んでいること)が、今回の災害被害を大きなものにしました。日本ではこのような谷底平野に多くの方が居住している所が、他の地域にも数多く存在しています。

現地での聞き取り調査による避難実態

2018年1月15日~18日と4日間にわたり、朝倉市の9地区の集落の方に災害前後の状況や地区の避難状況、被害状況について対面で聞き取り調査(*)を実施しました。地区ごとに状況は異なりますが、内容をいくつか要約して紹介します。(*東京大学、九州大学、国土交通省と合同で実施)

1)「避難が難しかった」「避難先が限られた」という声【写真1】
・地区として避難先を事前に決めていたが、雨が強くて、あっという間に河川の増水、裏山の土砂の崩れによる土砂の流下等が発生し、避難場所へ行くのは不可能と判断せざるを得ない状況であった。

・避難しようと思った時には、土砂災害時には危険である松末(ますえ)小学校へ逃げるしかない状況であった。学校の3階まで上がって助かった。

・短時間で道路はもちろん橋の上に水や土砂が流れて危なくなり、対岸へも渡れなかった。移動が限られる。

・地域の中で高台にあり周辺からの土砂崩壊の影響も少ないと思われる家に多くの方が避難して人命が助かった。

2)「地域で『声かけ』などの助け合いをした」という声
・地区のどこに誰が住んでいるか分かっているので、水や土砂で危ない状況になった家等へ救助に行き、高齢者を救出した。

・地区を巡回して、状況を確認した。危ないと思われた家にいる高齢者等に安全と思われる家に避難するように声かけをした。自宅から動かない(動けない)高齢者も居るので対応が難しい。

3)「いろいろな障害があった」という声
・防災無線は家の中にいると雨と雷の音で全く聞こえなかった。

・別の場所で勤務しているので大雨情報を聞き車で自宅へ戻ろうとしたが、途中で渋滞し断念。家族や地域の知り合いと携帯で連絡をとった。自宅に戻ろうとして亡くなられた方もおられた。

避難のあり方と留意点

今回の聞き取り調査からは、避難当日の住民の方々の行動の一部が把握できました。この地域は行政と協力しながら防災訓練が行われていたり、防災マップを住民自ら作成したりするなど、日頃から防災意識の比較的強い先進的な地域でした。また地区の住民のつながりが強く防災力の強い地域でもあったのですが、そのような地域でさえ、2017年7月の豪雨のように局所・集中的な雨が降った場合には、地質や地形的な要因もあり、避難行動が極めて難しくなることが分かりました。以下に留意点や教訓をお示しします。

・今回のような記録的な集中豪雨では、避難しようとした時には移動範囲が限られ、事前に決めていた避難場所へ避難できない。谷底平野では特に避難行動が困難になる可能性が大きい。高齢者が多いとなおさらである。

・記録的集中豪雨の場合、短時間で道路や橋に水や土砂が氾濫するので、移動すること自体が極めて危険で孤立しがちである。

・人命を確実に守るためにはできるだけ早く地域防災計画で決めている安全な避難場所へ逃げることが重要だが、急な豪雨の場合には難しい。

・避難ができない状況になった場合は、地区内の安全な個人宅へ逃げ込んで助かっている人が多くいた。地区内の比較的安全な人家を事前に決めておき、逃げ遅れた場合はそこへ逃げ込むことも緊急時には有効。

・気象情報を正確に把握し、行政情報も入手する必要があり、日頃から携帯電話やテレビ、ラジオを介した情報入手の方法を知っておくとよい。

・豪雨時には雨戸も閉めるので、雷鳴や雨の音で防災無線は聞こえない場合が多い。別の手段で情報を得る方が現時点では現実的である。防災無線だけに頼るのは好ましくない。

・比較的安全な人家はハザードマップを用いて地域の安全性を確認して決めることが有効。その際、家屋構造の強度も重要である【図2】。

・地区内の区長さんの声かけで安全な個人宅へ移動して助かった多くの人がいる。声をかけてもなかなか逃げない人もいるが、知っている方からの声かけは避難行動のきっかけとして有効である。

今後の土砂災害に備えること

今回は9地区の代表の方に聞き取り調査を行いましたが、今後さらに詳しくアンケート調査を実施する予定です。それによって災害時の情報伝達や避難の決断などのタイミング、避難行動の難しさの実態などが、さらに詳細に分かることになるでしょう。これらの調査から「2017年7月の豪雨災害」の教訓をしっかり把握し、次の災害の減災につなげることが重要だと考えます。この詳細なアンケート調査結果のまとめは、今後の本コラムで掲載したいと思います。

減災を実現するには、地域の防災力を高めることが重要です。ふだんの準備が、有事の際には極めて大きな意味を持ちます。防災訓練に参加することは、特に重要です。朝倉市の例でみられるように、地域住民自らハザードマップを作成する試みが行われている地域もあります。地域のことは地域の方々のほうが詳しいのです。このような取り組みを行い、日頃から避難場所、避難路、避難のタイミング、その際の手順なども行政とともに決めておくとよいでしょう。「山間部の谷底平野」など、もともと避難行動が難しい地域では、個人の住宅であっても、逃げ遅れた場合の「身近な緊急避難場所」として、事前に決めておくのが一つの有力な方法です。

最近では雨の降り方が、以前にも増して激しくなってきています。いかに早く災害情報を入手し、避難行動を起こすのか、またそのための準備ができているのか。今、地域の防災力が試されようとしています。

(*)朝倉市自主防災マップ(PDF)
上のマップは全体が大きいため、縮小しています。鮮明にご覧いただくには、下記の「朝倉市」のサイトをご覧ください。
http://www.city.asakura.lg.jp/www/contents/1332397590637/index.html

(2018年3月30日 更新)