亀裂深まるアメリカ社会

亀裂深まるアメリカ社会

 「トランプ意外に善戦!!」 中間選挙の開票速報に立ち会いながら感じた印象です。トランプ大統領の与党共和党は、上院で多数を維持したものの、下院では8年ぶりに民主党に過半数を奪われました。それでも善戦と感じたのは中間選挙の性格と、今のアメリカの政治状況が理由です。
アメリカの有権者は、議会を大統領のチェック機関と見ています。このため政権が交代しない中間選挙では、大統領の与党に厳しい結果が出るのが普通で、共和党にとっては最初からハンディキャップ・ゲームです。しかも今回は、「大統領の信任投票」という色彩が異常に強い選挙でしたから、支持率が常に不支持率よりも低いトランプ大統領にとっては厳しい戦いでした。
 アメリカの議会選挙では、有権者の意向は上院よりも下院の方により敏感に反映されます。それは上院議員が人口に関係なく、各州から2人ずつ選ばれて6年間の任期を務めるのに対し、下院議員は人口の比率によって各州に細かく割り当てられた議席数をめぐって、2年ごとに有権者の審判を受けるためです。そんな中で行われた今回の中間選挙の暫定的な投票率(voter turnout) は、過去50年間で最も高い47.3%。これまでになく関心の高い選挙だったことを示しています。そして結果はご承知の通り。白人中間層の男性という「中核支持層」に徹底的に肩入れして、リベラル派や移民への敵意をあおるトランプ流に、若者、女性、マイノリティー、同性愛者など各層がことごとく反発し、それが民主党のエネルギーになりました。
 そんな中でトランプ大統領は、狙いをつけた激戦州の支持者のもとへ精力的に足を運び、中米からアメリカを目指して北上する移民集団の脅威を毎回持ち出して人々の不安をかき立てたかと思えば、突然中間層への減税も打ち出して、いわゆる岩盤支持層の結束固めを図りました。その結果、事前に予想された「ブルーウェーブ」(blue wave) という民主党の大逆襲を、かなりの程度せき止めることに成功しました。また上院は改選議席が民主党より遙かに少なく、もともと有利だったとはいえ、インディアナ、ミズーリ、ノースダコタで民主党の現職から議席を奪って上院の過半数を制しただけでなく、改選前より議席を増やす勢いです。さらに36州で行われた知事選挙で共和党は数こそ減らしたものの、2020年の大統領選挙のカギを握るフロリダ州とオハイオ州での接戦を制しました。以上が「善戦」の理由です。
 さて今回の選挙で、アメリカ議会には上下両院の多数派が違うねじれ状態が生まれることになりました。アメリカ議会のねじれ現象は珍しいことではありません。ただ、民主党と共和党の距離はこれまでより一段と離れてしまいました。共和党ではトランプ大統領に忠誠を誓う「ミニトランプ」と呼ばれる人々が増える一方、その強引な政治手法を嫌ったライアン下院議長ら、かつての主流派が大挙して引退を表明しました。一方、民主党も、従来のリベラルな中道主義を批判する急進的なバーニー・サンダース上院議員に心酔する若手議員が台頭してきています。
 下院の多数派を民主党が握ったことで、トランプ大統領がこれまでのような政権運営を続けることは不可能になりました。まず大統領が拒否し続けてきた納税申告書の公開要求や、ロシア疑惑の捜査に拍車がかかることは間違いありません。またアメリカ政府には法案の提出権がないため、法律を作るには上下両院が別々に決議した法案をすりあわせ、全く同じものにしたうえで大統領が署名する必要があります。しかし議会下院では、多数党となった民主党がすべての委員会で委員長ポストを独占しますから、妥協点を探ることは一段と難しくなります。さらに予算の編成は下院が主導しますので、メキシコ国境の壁の建設や追加減税など予算措置をともなう大統領の政策は、ことごとく頓挫する可能性があります。その場合、内政で成果をアピールできないトランプ大統領は、大統領の裁量が大きい外交や通商面でますます居丈高な政策を打ち出す公算が高いように思います。
 アメリカ社会の分断はトランプ大統領が原因ではなく、分断によって生まれたのがトランプ大統領です。そうしてみると野党が牛耳る議会下院という敵に対して、トランプ大統領が歩み寄ることはまず考えられません。むしろ政治の膠着を民主党のせいにしてますます攻撃的な姿勢を強め、アメリカ社会の亀裂は一段と深まることになりそうです。
岡部 徹

岡部 徹
元NHK解説委員。「ニュースで英会話」のほか、NHKのニュース解説番組「時論公論」「大人ドリル」など多数出演。専門は、アメリカ政治、国連。「世界へ発信!ニュースで英語術」では、番組やホームページで扱う英語ニュースの監修を担当。