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“転勤妻”の手助けに 川崎の女性らがサポートブック作成

  • 2024年4月23日

新年度、パートナーの転勤先での生活をスタートさせたという方に、届いて欲しい本があります。
転勤族のパートナーのための「転勤妻サポートBOOK」。
パートナーの転勤で、先の見えない生活に苦しんだ女性たちが、経験やアドバイスをふんだんに盛り込みました。
「転勤で、やりたいことを諦めてほしくない」
込められた思いです。

“転勤妻”の悩みを網羅

今月発売された、「転勤妻サポートBOOK」。
転勤族のパートナーをもつ人のための本です。
引っ越しのたびにリセットされる人間関係といった、転勤族の妻特有の体験談や、憂鬱になりやすい転勤後の時期に自分の心をケアする方法、それに自治体の補助制度の調べ方など、転勤時に役立つ情報やアドバイスが書かれています。

転勤妻 悩み分かち合って

kinocom

この本を作ったのは、転勤族の妻で作るオンラインコミュニティ「kinocom」のメンバーです。
国内外の転勤妻たちが主にオンラインで、特有の悩みを分かち合い、支え合ってきました。
取材した日は都内でオフ会が開かれました。
それぞれの発言に、メンバーは「あるある」とにこやかに応じていました。

じゅんさん
夫は会社というコミュニティがすでにある場所に行けるけど、私たちは行った先でゼロから作り上げなきゃいけない。スーパーに行って、そこのレジの店員さんとの会話だけがその日の大人との会話だったりします。

みささん
もともと関西にいて北海道で一人目を出産したんですけど、コロナ禍で、誰も知り合いもいないし、病院すら分からない。助けを求めないと自分をもう見失うと思いました。

一番悩んだのはキャリア

久保麻奈美さん

本を書いたメンバーの1人、川崎市の久保麻奈美さん(37)です。
夫の転勤にあわせて、大阪、岡山、愛知、神奈川と7年で3回引っ越してきました。

最も悩んだのは、自分自身のキャリアでした。
結婚前は正社員として営業事務の仕事をしていましたが、夫の転勤で退職しました。
夫の次の転勤がいつあるかもわからない中では、仕事を探すこと自体が難しかったといいます。

久保さん
働きたいのに働けない。仕事を辞めちゃってるので、働こうと思うと、保育園に預けないといけないんですけど、保育園に預けるためには仕事がないといけない。
それに、次の転勤があるので、働きだしてすぐ辞めなきゃいけないかもしれないっていうのを考えると動けなくって、もう諦めるっていう選択肢しかなかったです。

社会に取り残される

仕事もなく、家族以外に知り合いもいない中、子どもの習い事を通じて、地元のママ友を作りました。
しかし、転勤の心配のないママ友たちは子どもが1歳になるタイミングで全員、職場に復帰していきました。

久保さん
このままずっと社会に取り残されていくんじゃないか。自分が決めた道なので、なかなかその周りに相談できなかったし、どんどんどんどん自己肯定感が下がっていっていきました。

工夫して 仕事続ける

そんな中で見つけたのが「kinocom」でした。
そこでは、同じ境遇の人たちが工夫して仕事を続けようとしていました。

じゅんさん
WEBデザインを学んだので、いま夜の時間とか、知り合いからつないでいただいたお仕事で、バナーつくったりとかしています。

オンラインで出来る仕事を掛け持ちしている人。
あらためて自分のやりたいことを見直して、資格を取る人。
様々なケースを見ることで、視野が広がったと言います。

久保さんは今、引っ越しても続けられるオンライン秘書の仕事を見つけ、キャリアを積み重ねていくことができています。

久保さん
同じ境遇の方とお話ししして、いろんなお仕事している人とコミュニケーション取っていく中で、自分のキャリアを見直して、チャレンジするきっかけになりました。

経験を伝えたい

久保さんはその後、夫の転職で転勤妻を卒業しましたが、これまでの経験を今困っている人達に伝えようと、ほかのメンバーと協力して本を作ることにしたのです。

転勤妻サポートBOOK

75人にアンケートをとり、「仕事」「お金」「人間関係」「すまい」の4つのカテゴリーにわけて、体験談やアドバイスを掲載しました。

転勤を期にフリーランスに。最初は不安だったけど、特別なスキルがなくても始められる仕事も多かった。

仕事のため別居を続けたが、家族との時間を取りたいと会社に相談したら、フルリモートで働けるようになった。

仕事については、体験談だけでなく、キャリアを見直すための自己分析の仕方から、オンライン学習の方法、仕事の探し方も書き込みました。
憂鬱になりやすい転勤後の時期に自分の心をケアする方法、それに自治体の補助制度の調べ方など、転勤時に役立つ情報やアドバイスも書かれています。

久保さん
いろんなメンバーが経験してきたこと、調べてずっと模索してた内容が詰め込まれています。正解は書いていなくて、自分の正解を見つけられるような、導けるようなヒントがたくさん、詰まっている本です。

転勤でやりたいこと諦めないで

川崎市内の子育て支援施設

必要な人に届けたい。
久保さん達は子育て施設へ本の寄贈を始めました。
取材した日は、転勤族のパートナーが多く訪れるという、川崎市の施設を訪れました。

施設の代表も、夫の転勤についていった経験がありました。

子育て支援グループ「いいんだよ」
須山智子さん
こういう本、いいですよね。キャリアとかにすごく悩んでたので、興味があります。
私が先に読ませていただいてから、皆さんにも読んでいただきたいです。

久保さん
転勤族であってもいろいろな可能性がある。「こういう時はこうしたらいいよ」というのを少し知っているだけで、転勤生活が少しでも良くなるので、楽しく生活できるようになればいいなと思っています。

転勤で夫婦どちらか幸福度ダウン

転勤妻についての最新の研究があります。
大阪経済大学の野崎華世准教授の行っている研究では、妻が夫の転勤について行く場合、「生活の満足度」が転勤と同時に下がります。

一方、こちらのグラフにはありませんが、夫が単身赴任した場合、妻の満足度は転勤時に下がるものの、転勤後には転勤前と同じ水準に戻ります。

それなら夫に単身赴任をしてもらえばいいのかというと、夫の「生活の満足度」は単身赴任したときに下がることがわかりました。つまり、転勤を経験すると、夫と妻どちらかの生活満足度が下がるということがわかったのです。

ちなみに、家族が転勤についていった場合、夫の生活満足度に大きな変化はみられないという結果でした。

転勤は最小限に 見通し示して

転勤制度に詳しい法政大学の武石恵美子教授は転勤制度について、次のように話しています。

転勤をゼロにすることは難しいが、女性社員本人や配偶者のキャリア形成の阻害要因になっている。リモートワークの活用も検討し本当に必要な転勤に絞るべきだ。
必要な転勤についても、本人の納得を得た上で、先の見通しを示すことが求められる。
転勤が働く人に忍耐や苦労を強いていることはもっと共有されていいし、現状を知ってもらうためにもこうした本は意義があるのではないか。

転勤妻サポートBOOKは、インターネットで購入できます。
久保さんたちは、子育て支援施設、図書館などに寄贈していきたいとしています。

問い合わせは、kinokomのこちらのLINEに連絡してほしいということです(NHKのサイトを離れます)

取材を終えて

久保さんは最初の転勤先で、仕事を見つけられずに悩んでいた時期に、0歳の子どもと一緒にベビースイミングに通い、同い年の子どもを持つ仲の良い友人が数人出来たそうです。

ママ友と子どもたち

でも、転勤のない地元の人達だったため、子どもが1歳になるタイミングで友人は一斉に復職。
次にスイミングに行ったときには、久保さん親子だけになってしまったときの孤独感を話してくれました。
いま、働く女性が増えたからこそ、働くことのハードルが高い転勤族の妻の悩みが浮き彫りになっているのではないかと感じました。
これは女性だけの問題ではなく、妻の転勤に帯同する男性も同じ問題に直面します。
今回の本のような経験者の知恵が共有されて、少しでも生きやすくなって欲しいと思うと共に、時代に合わせた転勤のあり方を模索していく必要があると感じました。

  • 佐藤美月

    横浜放送局 記者

    佐藤美月

    2010年入局 川崎市を担当。「すべての子どもが生き生きと暮らせる社会」をテーマに取材を続ける

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