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子ども食堂の「食事」の充実を 神奈川県の取り組み

  • 2024年04月08日

子どもたちに食事や居場所を提供する子ども食堂。
全国で増加していて、いまや子どもだけでなく、幅広い世代の人が交流する、地域にとって欠かせない場所になっています。
神奈川県は子ども食堂で提供される食事の充実を目指して新たな取り組みに乗り出しました。

子ども食堂 この日のカレーは…

こども食堂の様子(横浜市)

今回、取材にうかがったのは、横浜市の市民団体が運営する子ども食堂です。
開催するのは月に1回。訪れる人たちに、無料や低額で食事を提供しています。
子どもや親だけでなく、幅広い世代の人たちが訪れ、地域の交流拠点にもなっています。

この日、提供されたのはカレーライス。
ただ、いつもとはちょっと違うところが。
実は、これまであまり使うことができなかった肉がふんだんに入っていたのです。

食材の調達には課題も

なぜ、これまでは肉をあまり使えなかったのでしょうか。
その理由は、子ども食堂の食材調達の仕組みにありました。

子ども食堂は主に寄付によって食材を調達していますが、野菜や缶詰、レトルト食品など保存できるものが中心だといいます。
肉や魚介類は、冷凍や冷蔵が必要なため運送コストがかかり、安定した調達は難しいのが現状だということです。
子どもの成長や栄養バランスを考えると肉や魚介類も必要ですが、運営団体が自費で購入するのは経済的にも厳しいといいます。

 

多世代地域交流食堂みらころ 髙木幸さん
お肉はけっこう高価なものになってしまいます。やっぱり費用を抑えないと子ども食堂の活動自体を継続していけないので…。どれだけ食材費を抑えるかというところで毎回苦労しながらやりくりしています。

支援に乗り出した神奈川県

神奈川県の担当部署

多くの人が頼りにしている子ども食堂の食材調達の課題。
神奈川県は、解決のためには新たな仕組みが必要だと考えました。

 

神奈川県政策局いのち・未来戦略本部室 河野智子担当課長
子ども食堂の食材調達のネックになっていたのは冷凍での輸送です。そうした部分を支えるような、持続可能な取り組みを社会全体で連携して行いたいと考えました。

全国でも珍しい冷凍食材の運送網

食品会社の製造の様子(横浜市)

そこで県が協力を呼びかけたのが、県内の食品会社です。
注目したのは、例えば商品のサイズに合わない切り落とし肉など、品質は確かなものの廃棄せざるを得なかった食材。

 

無償提供するお肉のパック

これを流通品と同じく冷凍して、無償で提供してもらいます。
会社にとってはフードロス対策につながります。

食品会社の担当者
製造活動の中で出てくる端材で、これまでどうしても廃棄になるお肉というのが発生していました。ただ、食べられるお肉なので、なんとか有効活用できないかということで、このたび提供させていただくことにしました。

最大のネックだった運送面の課題も解決しました。
県は新たな寄付制度をつくり、専用の冷凍車を整備する費用を負担。

 

新たに導入された冷凍車に積まれた冷凍肉

その冷凍車を使って、協力先のフードバンクが県内各地に設けられた拠点まで食材を運びます。

それぞれの拠点を、近隣の子ども食堂の担当者が訪れ、冷凍の食材を受け取ります。
神奈川県によりますと、県内全域の子ども食堂に冷凍食材を安定的に提供する仕組みは、全国でも珍しいということです。

 

それぞれの子ども食堂の担当者が受け取りに

 

髙木さん

お肉はね、費用がかかるので、本当に助かります。食事を並べて、子どもたちに食べてもらった時に「おいしい」っていう言葉が出るのが、とても楽しみですね。

新たなメニュー みんな笑顔に

そして、待ちに待ったこの日。

子ども食堂のメニューが書かれた看板には「お肉たっぷりポークカレー」の文字が踊っていました。

調理場では、新たに提供されるようになった肉を初めて使って料理が行われました。
調理の担当者も、「お肉もたっぷりで、驚くぐらいおいしいものできると思いますよ」とうれしそうでした。

その名の通り、肉がたくさん入ったカレーライス。
子どもも大人も大満足でした。

やわらかくて、おいしい。

子どももお肉いっぱい食べてます。おいしいです

提供する食事の幅が広がった子ども食堂。
今後は開催する回数も増やしていきたいと髙木さんは話しています。

 

多世代地域交流食堂みらころ 髙木幸さん
子どもたちが「おいしい、おいしい」っておかわりをしてくれる姿を見るのが私たちの励みになります。今後は、これまでよりいろんなお料理ができるようになると思いますので、もっともっと多くのお子さんや地域の人に食べていただきたいなと思います。

今回の取り組みでは、子ども食堂側も、冷凍食材を適切に管理するための講習を事前に受けているということです。
安心・安全でおいしい食事の提供が、子ども食堂でさらに進んでいきそうです。

取材を終えて

主に寄付によって食材を調達している子ども食堂。現場を取材すると、肉や魚介類などタンパク質が不足しがちになってしまう現状を何とか改善したいという声が聞かれました。そうした中で、神奈川県が今回始めた取り組みは、ほかの自治体にとっても解決のヒントになるのではないかと感じました。
行政、企業、民間団体が連携し、どこかが大きな負担を背負うのではなく、それぞれが持続可能なやり方で支援を行っているからです。その結果として生まれたのが「お肉たっぷりポークカレー」でした。
子ども食堂の皆さんのご厚意で、私も少し食べさせていただきましたが、本当にお肉がたっぷりでおいしかったですし、何より子どもたちの笑顔が印象的でした。地域社会になくてはならない子ども食堂の充実につながるような取材を、今後も続けていきたいと思います。

  • 関口 裕也

    横浜局記者

    関口 裕也

    2010年入局。福島局、横浜局、政治部を経て、2022年8月から再び横浜局。神奈川県政を中心に取材。

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