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サッカーが続けられない 子どもの「体験」に支援を

  • 2023年11月22日

習い事やスポーツといった、学校以外での「体験」。
子どものころの体験は、その後の自尊心や意欲など、さまざまな能力に影響を与えるとされています。しかし経済的な事情で、こうした体験の機会を十分に得られない子どもたちもいます。
支援の動きも始まっています。

サッカーを続けられない

神奈川県の中学1年生、山田蓮さん(仮名)は小学2年生からサッカーをはじめました。
しかし、学年が上がるにつれて遠征が増え、経済的な負担が増していきました。
遠征の交通費で毎月1万円、ユニフォームに3万円、合宿に4万円。
さらに、成長期で頻繁に買い換えが必要になるスパイクや練習着にもお金がかかります。
用具は中古でそろえていますが、費用を捻出するのが難しくなっていきました。

蓮さん
サッカーは楽しくて、サッカーのおかげで苦手だった努力もできるようになった。でも、お母さんが費用を1人で負担してくれてて、ありがたいけどごめんなさいという気持ちがありました。

仕事のあとにアルバイト

母親の裕子さん(仮名)は、1人で蓮さんを育てています。
正社員として働いていますが、コロナ禍で残業代が減り、さらに、物価や光熱費の高騰が追い打ちをかけました。
何とかサッカーを続けさせてあげたいと、平日の仕事が終わった後、飲食店でアルバイトをはじめ、苦しい状況をひとりで抱えてきました。

裕子さん
ちょっとこのままだと厳しいなと思っていた矢先に、合宿で数万円の出費があったのですが、子どもには『お金が理由で、行けないよ』ってことはやっぱり、伝えられませんでした。苦しい状況がありました。
暮らせるならいいじゃん、仕事して御飯食べれて寝る所があるならいいじゃん、って思われることの方が多い時代だと思います。そこに趣味のサッカーはやっぱり、ぜいたくっていうふうに思われちゃう。

サッカー諦め不登校も

サッカーを諦めたことで、深刻な状況になった子どももいます。
福岡市の高校1年生、内田大翔さん(仮名)は、サッカーが大好きでしたが、小学校6年生の時に経済的な理由で、サッカーをやめざるを得なくなりました。
本人も納得しての決断でしたが、その後さまざまなことにやる気が起きなくなってしましまい、学校に通えなくなりました。

大翔さんの母
生活が苦しくなって、サッカーをするとごはんが食べられなくなってしまうので仕方ないと思っての決断だったのですが、もともとすごく優しかった子が弟を叩いてしまったり、荒れていってしまいました。

費用や用具を支援

逗子市のNPO「ラブフットボール・ジャパン」は、経済的な理由でサッカーをすることが難しい家庭を対象に、支援を行っています。
全国から応募があった家庭に対して、企業から寄付を受けたスパイクなどの用具や、集めた寄付金による支援金を配布しています。
蓮さんと大翔さんにも支援をしています。

企業から提供されたスパイク

応募は3倍に

支援への応募は、この2年で3倍の300人あまりに増えました。
新型コロナや物価高の影響を受けているといいます。
調査をすると、支援している家庭のおよそ4割はサッカーのために借金をしたことがあることもわかりました。

ラブフットボール・ジャパン 加藤遼也代表理事
サッカーのために借金までしている状況はショックでした。厳しい環境下の中で、子ども達がサッカーをやりたいと言っている状態を、どのように守っていくか。保護者のかたたちが苦労されているというか、悩まれています。

精神面の支援も

ラブフットボール・ジャパンのイベント

団体が支援している家庭の中には、孤独や不安を抱えていたり、親に遠慮して、気持ちを伝えられなかったりする子どもも多くいます。
そうした子どもたちを精神的にも支えようと、イベントを開催しています。
月に一回、オンラインやリアルで集まって開催し、蓮くんや大翔くんも参加しています。

左:家長選手

神奈川県で行われたイベントでは、川崎フロンターレの家長選手が子どもとミニゲームを楽しみました。
そして、直接エールを送りました。

家長選手
みんなが、サッカーをやりたいっていう姿勢がすごく良いと思った。そういう気持ちを忘れないで、いろんなことに挑戦して欲しい。またうまくなってみんなで集まろう。

サッカーを諦めかけていた蓮さんも、団体の支援を受けて続けたいと口にできるようになりました。

蓮さん
(支援を受けて)自分もうれしかったし、お母さんも自分が頑張れてるの見てくれてて、笑顔とか増えて良かったです。

裕子さん
心の支援みたいなサポートができない場面を、助けて頂いています。心がすごく軽くなってます。

不登校になっていた大翔くんも、中学校1年生でサッカーを再開。
支援を受けることで、今もサッカーを続けられています。
いまは、高校生活の傍ら、アルバイトをしながら、プロを目指して練習に励んでいます。

大翔くん
サッカーがないと生きていけないです。支援を受けてサッカーを続けられることで、改めてサッカーの大切さに気付いて、感謝することができるようになりました。

「体験」できない子ども多く

体験が十分に出来ていない子どもが多くいることが明らかになってきています。
公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」がことし7月に2000人あまりを対象にした調査の最終報告を行いました。
年収300万円以下の家庭の3人に1人が、学校以外の体験ができていないことがわかりました。

さらに、現在の世帯年収が低い家庭の保護者ほど、保護者自身が小学生の頃に学校外の体験活動をしていなかった割合が高いこともわかりました。
体験と将来の収入が関係する可能性があるということです。

支援は不十分

しかし体験への支援は、まだまだ潤沢ではないのが現状です。
逗子市のNPOでも、急増する申し込みに対して寄付金が足りず、全員に希望する支援を届けられていません。
支援が広がりづらい背景には、優先度の低さがあるのではないかと代表は分析しています。

ラブフットボール・ジャパン 加藤遼也代表理事
子どもにとって体験は、自信を付けたり自己肯定感を高めたり、人生で本当に大切な仲間と出会えたりといった機会になってきます。子ども時代にすごく必要なものだと思っています。
しかし、子ども支援の分野の中でも、文化やスポーツへの支援は、ほかの衣食住の支援だったり、いわゆるベーシックインフラの支援に比べて優先度が下がってしまう。支援の担い手が増えないと言うことがずっと続いていると感じます。

新たな「体験」支援の取り組み

体験の重要性に着目し、すべての子どもに豊かな体験をしてもらおうと、いち早く取り組み始めた自治体があります。

撮影 丸田平

長野市はチャンス・フォー・チルドレンや国と協力して、ことし10月、サッカーやスイミング、ピアノや絵画など1万円分の体験ができるポイントの配布を始めました。
経済状況に関わりなく、すべての小中学生が対象で、子どもにさまざまな体験をしてもらうことがねらいです。
また、地域で活動する団体が地域コーディネーターとなり、貧困や障害などの困りごとを抱える家庭に対しても相談に乗って体験できるよう手助けをします。

チャンス・フォー・チルドレンは、「体験にスポットを当て、さらに所得制限もない、全国でも類を見ない先進的な取り組みだ。申請も不要で、所得の低い世帯の子どもが利用する際のハードルが下がる」と話しています。

取材を終えて

取材した山田蓮さんに将来への思いを聞くと、「大きくなったら、自分も支援する側にまわりたい」と話していました。団体には、こうした声が届くことは珍しくないそうです。
私はこれまで、食べることや勉強することに困っている子どもたちも取材してきて、衣食住の支援や、学業の支援が必要であることは間違いないと実感してきました。一方で、今回の取材を通して、子どもにとって体験が学業と同じく重要な要素だと感じました。今後も取材していきたいと思います。

支援するNPO「ラブフットボール・ジャパン」に寄付を希望する場合はこちらのサイトからです(※NHKのサイトを離れます

  • 佐藤美月

    横浜放送局記者

    佐藤美月

    子どものウェルビーイングをテーマに取材。

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