ページの本文へ

かながわ情報羅針盤

  1. 首都圏ナビ
  2. かながわ情報羅針盤
  3. 川崎 小学校プールの水出しっぱなし 教員へ賠償請求どこまで?

川崎 小学校プールの水出しっぱなし 教員へ賠償請求どこまで?

  • 2023年9月22日

学校のプールで水が出しっぱなしになり、教員個人が賠償を求められるケースが相次いでいます。
川崎市の小学校では今月、教員と校長に損害の半額にあたる95万円を請求。後に納入されました。
業務上のミスに損害賠償請求をすべきなのか?
そもそも教員がプールの管理をすべきなのか?取材しました。

何がおきたのか?

稲田小学校

事案が発生したのは2023年5月17日です。
川崎市の稲田小学校で、30代の男性教諭が、プール開きに向けて水をためようとして、給水装置とともに、水をろ過するための装置を作動させました。
最初のうちはろ過装置に水が入っていないため、空だきのような状態になり、警報音が鳴り始めました。
しばらく放っておけば警報音はやみますが、教諭はすぐに音を止めようとして、ブレーカーを落としてしまったということです。
教諭は6時間後、給水を止める操作をしましたが、ブレーカーが落ちたままだったため、装置が反応せず、そのまま注水が続きました。

プール6杯分 190万円が無駄に

プールは屋上にあり、水泳の授業も始まっていなかったため、巡回は行われず、5日後に用務員が補修作業のために訪れるまで水が出しっぱなしになりました。
プールおよそ6杯分、2200立方メートルが無駄になり、190万円余りの損害が出たということです。

マニュアルなく 初めての作業

市の教育委員会によりますと、プールの給排水については、操作盤に簡単なメモが貼ってありましたが、空のプールに水を入れる手順を示すマニュアルはなく、担当した教諭にとっては初めての作業だったということです。
教育委員会は再発防止のため、8月、プールの給水の際に複数の職員でチェックすることなどを定めたマニュアルを作成しました。
今後はマニュアルに基づいた運用を徹底するとしています。

教員に95万円の支払い求める

川崎市役所

市は8月、担当した教諭や校長に半額を請求すると発表しました。

市には多くの批判が

市や教育委員会には、およそ600件の意見が寄せられました。多くは「教員がかわいそう」とか、「プールの管理は教員の仕事なのか」といった批判的な内容でした。

インターネット上でも多くの批判が投稿され、SNSのX(エックス)では、「個人が払わなければいけないの?」「川崎市の教員にだけは絶対ならない」といった書き込みが見られました。

教職員らで作る団体が、賠償請求の取り下げを求めて、インターネット上で1万7千筆の署名を集めました。
9月21日、市と教育委員会に提出しました。

大前博事務局次長
教員ではなく、マニュアルがないなど、市のプールについてのずさんなリスク管理に原因があるのではないか。今回の決定を検証してもらわないと、全国の教員に与える影響も大きい。

95万円を支払い

9月15日、請求通りおよそ95万円が支払われました。

川崎市教育委員会
個人の賠償責任について慎重に判断した結果であり、批判は受け止めるが、適正な判断だと考えている。

プールの水 賠償請求相次ぐ

学校などで、プールの水を出しっぱなしにしたことによる賠償請求は、相次いでいます。
専門家によると概ね5割程度を請求するのが一定の相場に なっているということです。

▼横須賀市 半額請求
2022年、横須賀市の中学校では、新型コロナウイルス対策としてプールの水を常に入れ替えようと、本来必要がないのに、2か月半にわたって給水していたとして、担当の教諭や校長らに損害額の半額にあたる174万円余りが請求されました。

▼高知市 半額請求
2021年、高知市の小学校では、給水の止め忘れでおよそ7日間にわたって水が出しっぱなしになり、教諭や校長らに、損害の半額にあたる130万円余りの支払いが求められました。

▼千葉市 みずから全額弁償
2015年、千葉市の小学校で同様の事案があった際には、担当の教諭と教頭、校長がみずから申し出て、損害の全額およそ438万円を弁償しました。

▼三豊市 賠償請求せず
一方2023年7月、香川県三豊市の幼稚園で、バルブの閉め忘れで55万円分のプールの水が流出した際には、「関係する職員の小さなミスが積み重なった結果で、賠償を請求するほどの過失はなかった」として、市が全額を負担しました。
請求をしなかった場合は、住民監査請求や訴訟を受ける可能性もあり、各地の自治体は難しい判断を迫られています。

「全額請求すべき」住民監査請求も

賠償額を巡り、実際に住民監査請求が出されたケースもありました。
2015年、都立の高校でプールのバルブを閉め忘れ116万円分の損害が出たケースでは、都が体育教員らに半額の弁償を請求したところ、「全額を請求すべき」として住民監査請求が出されました。
監査では、都内の他の自治体が25パーセントから75パーセントの損害賠償請求を行っていることや、過失の度合い、プールの管理が主な業務でないことなどを考慮し、都の請求どおり、50パーセントの賠償が適当だとしました。

川崎市はこうした過去の事例などを参考に、弁護士に相談しながら請求額について判断したということです。

賠償備える保険 支払額が増加

教職員共済生活協同組合=教職員共済では、教職員の業務中のミスなどで、損害賠償が必要になった場合に備える保険を、2011年から取り扱っています。

プールの水を出しっぱなしにしてしまったというケースのほか、
▼卒業アルバムの校正ミスで刷り直しが必要になったり、
▼運動会が延期になった際に給食を止め忘れたり、
▼敷地の草刈り中に石が飛んで、車を傷つけてしまったりと、さまざまな事案があるということです。

保険金の支払額は増加傾向が続き、2013年にはあわせて880万円ほどだったのが、2022年度は倍の1890万円ほどに増えたということです。

教職員共済の代表理事 伊藤功さん
学校の先生はいろいろなことをしています。どれも学校運営上の仕事だと受け止めているので、うまくいかなかった場合は責任を感じます。保険を使って賠償できる方が、安心して仕事ができるのではないかと思っています。

プールの管理は教員の仕事?

教員の負担を減らそうと、プールの管理を学校の外部に委託する動きも出てきています。
川崎市ではプールの老朽化をきっかけに、民間への管理委託などを始めました。

教員の負担軽減にもなるとして、市内の小中学校などのプールのうち、規模の大きい5か所の管理を民間企業に委託しています。

写真提供:サギヌマスイミングクラブ

また、3つの学校では、水泳の授業で、学校外のプールを利用していて、このうち西有馬小学校では水泳の指導も民間の指導員が行っているということです。

市教育委員会は、「プールの管理が教員本来の仕事なのかという課題もある。教員の負担を減らすことを視野に、プールの民間活用などの議論を進めていきたい」としています。 

教員の業務や責任、今こそ議論を

東京学芸大学 佐々木幸寿教授

学校についての法律に詳しい東京学芸大学の佐々木幸寿教授は、損害賠償の水準は時代によって変わってきているとした上で、教員が担うべき業務について、議論が必要だと指摘しています。

国家賠償法では公務員が職務を行う際に、他人に損害を与えたときは、国や自治体などが賠償責任を負うと定めています。
公務員に故意や重大な過失があった場合は、国や自治体などは公務員に賠償を請求できるとしています。

佐々木教授
公務員は国家賠償法に守られていて、かつては重過失に至らない限り、賠償請求を受けなかった。教員の仕事が多岐にわたり、ひとつひとつのミスで賠償請求していると、萎縮してしまうという配慮もあった。

一方、平成20年代からは住民からの批判が高まり、監査請求や訴訟が起こされるようになったことから、行政が民法を適用して損害賠償を行うようになったということで、これまでの事例や判例を見ると、損害額のおおむね半額を請求することが一定の相場となっているとしています。

損害賠償の水準はある程度時代的な背景の中で決まっていく部分もある。教員の業務が加重だという声もある中で、プールの管理を教員が担わなければならないのかという議論も当然ある。
どこまでが業務で、どこまで責任を負わなければいけないのか。いろんな声が起きてくるとは望ましいことだと思う。

取材を終えて

教員の過酷な業務負担や教員不足が社会問題となっています。
業務の範囲や、損害賠償についても、時代に合わせたあり方を検討する事が必要だと、強く感じました。

  • 佐藤美月

    横浜放送局 記者

    佐藤美月

    2021年から川崎市政担当。

ページトップに戻る