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在留外国人300万人 医療はどうする?|神奈川

  • 2023年07月18日

日本に在留する外国人は300万人以上。新型コロナの水際対策も緩和され、今後さらに増えると見込まれています。一方で外国人を診察する医療機関は少ないのが現状です。背景を取材しました。

横浜放送局記者 古市悠

30年以上 外国人を診療

小林国際クリニック

多くの外国人が暮らす神奈川県大和市にあるクリニック。患者の3割が外国人で、多い日には40人以上が訪れます。

クリニックの小林米幸院長(74)です。
外国人にも必要な医療を届けたいと、33年前から診察を続けてきました。
軽い風邪から健康診断まで受診理由は様々。
原則断ることなく受け入れます。
地域の外国人のかかりつけ医になっています。

小林国際クリニック 小林米幸院長
外国人も同じ地域の住民として診てあげられるような医療機関を作ろうと思って、クリニックを開設しました。

海外で治療の患者に対応

外国人診療の課題の一つが、日本では行われていない治療を海外で受けていた人への対応です。
この日やってきたのはペルー人の女性。
腕に埋め込んだチューブ型の避妊薬を取り出す手術を受けにきました。
埋め込む手術を受けた医師からは3年ごとに交換するよう言われていて、その期限が過ぎたということです。

チューブ型の避妊薬

チューブの避妊薬は長さおよそ4センチ、直径2ミリほどのシリコンチューブの中に避妊薬が入っていて、徐々に体内に放出されます。
海外では一般的ですが、日本では未承認です。

取り出す手術は5分ほどの簡単な手術で、日本で行っても問題はありません。
しかし健康保険は適用されず、国内で対応する医療機関はほとんどありません。
全国から患者が集まってくるといいます。
このペルー人女性も医療機関2か所に手術はできないと言われ、自宅から1時間かけて、このクリニックに来ていました。

小林米幸院長
日本で行われていない治療法ですから、それに対して知らないっていうことも1つあると思います。他の国でやったものを取っていいのかということも、多分あるんじゃないかと思います。

最大の課題はことばの壁

フィリピン、タイ、ブラジル・・・。多様な国籍の患者が訪れるクリニック。
さらに重要なのがことばの問題です。
正確にやりとりするため5人の通訳を雇い、6つの外国語に対応しています。
フィリピン出身のフロルデリサさんは18年間、このクリニックで通訳として働いています。

胃カメラ検査後の診察

この日は胃カメラの検査を行ったフィリピン人男性の診察に立ち会いました。
小林院長が検査結果を日本語で説明すると、医療用語をわかりやすく、タガログ語に訳して伝えます。

フィリピン人患者
やっぱりフィリピン語をしゃべれる方がいた方がいいかなと思います。安心します。

フロルデリサさん
本当に日本語は難しいし、普通の会話はいいんですけど、病院の言葉は難しいですかね間違いになったらちょっと大変なことになりますから。気をつけるんです。

通訳は診察以外の受付や会計にも付き添います。
細かに対応することで、通院を途中でやめたり、診療費が未払いになったりすることを防ぐことにもつながると言います。
一方、通訳費用は全額クリニックが負担しています。
制度上は診療費に上乗せして患者に請求することもできますが、経済的に苦しい外国人も多く、請求していません。

小林国際クリニック小林米幸院長
言葉がうまくわからないで、診察に時間がかかる、そのためにトラブルになりやすいとしたら、外国人の患者さんを受け入れる医療機関というのはますます減っていくだろうと思います。

外国人も医療に不安

外国の人たちも現状に不安を感じています。
国が行った調査では、いずれも2割余りが「どこの病院に行けばよいのかわからなかった」とか、「病院で病状を正確に伝えられなかった」と回答しました。

外国人を診る医者 育てたい

外国人を診察する医師を、育てようという取り組みも始まっています。
順天堂大学医学部の武田裕子教授のゼミでは外国人支援の現場を積極的に訪問しています。
外国人が日常日活で抱えている困難を肌で感じるためです。

順天堂大学医学部 武田裕子教授
外国人は言葉の壁などで、毎日の生活のなかでいろいろな不都合が生じていて、それが重なって健康にも影響してしまいます。私たちが海外に行ったときのことを考えると容易に想像できると思います。外国人が「うまく伝えられないのではないか」とか、「医師の言うことがわかるだろうか」といった不安を抱えていることを知ったうえで、接する医師であってほしい。

この日、医学部の学生が訪れたのは外国にルーツがある子どもたちを支援する団体です。
絵本を読み聞かせたり、カルタをしながら日本語を学ぶ取り組みに参加しました。

子どもたちが抱える事情について意見交換もしました。

外国人支援ボランティア
子どもたちは日常会話はできるから、困難はないんじゃないかと見られがちだけど、実際はそうではなくて落とし穴がいっぱいある。

医学部生
学校の教科書では「名前」とは言わずに「名称」と書いてあったりとか、難しい言い回しになっている。日常生活で「名称」なんて言葉は使わないじゃないですか。だからそういう系の言葉はわからないのかな。

外国人支援ボランティア
そう。学習言語と生活言語が違う。

日常会話ができているから、学校側も見つけにくいんじゃないか。

日常会話の日本語は問題なく話せても、学校の授業についていくのが難しい子どもも多く、こうした困難は学校の教員も気がつきにくく見過ごされがちだと言います。

さらに、日本語が話せない親と一緒に病院に行って、通訳をさせられているという実態も。

順天堂大学医学部 武田裕子教授
病院に行くときに頼まれて行くけど、小学生だから通訳しきれない。医者のことばって難しいじゃないですか。

様々な事情を抱える患者に対して、医師の方から寄り添うことの大切さを感じました。

ゼミに参加している医学部生
何も知らなければ、「日本人の一般的な患者さんだけ診たら楽だ」という考えになってしまったと思います。今日の経験は今後医者になったときに、すごく役立つんじゃないかと思います。

順天堂大学医学部 武田裕子教授
外国人だけでなく、日本人の患者でもいろいろな状況、生活背景を持っています。そういった点に配慮して患者を診られる医師の存在は、外国人だけではなく日本人にとっても本当に意味があるんじゃないかなと思います。

取材後記

日本医師会の外国人医療対策委員を務める小林院長によりますと、国や自治体は電話やオンラインでの医療通訳サービスの整備を進めていますが、十分に使われていないということです。
小林院長は「外国人が貴重な労働力となっているいま、安心して医療を受けられる体制を整えるのが必要だ」と話していました。
武田教授も話していたように、私も日本で外国人と接する時は、逆の立場になった時を想像して接する必要があると、改めて感じさせられた取材になりました。

  • 古市悠

    横浜放送局 記者

    古市悠

    2010年入局 大阪放送局や科学・文化部をへて横浜放送局。環境問題や基地問題を取材。

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