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見えなくとも釣りを楽しむ!ブラインドフィッシング

  • 2023年4月28日

「潮風を受けながら釣り糸を垂らすと子供のころを思い出してわくわくしました」。
小学生の時に、進行性の目の難病「網膜色素変性症」の診断を受けた37歳の男性。
視覚の障害は徐々に進み、大好きだった「釣り」からは長年、離れていましたが、今回、25年ぶりに挑戦しました。
あきらめない気持ちを与えてくれたのは一緒に楽しむ仲間の存在でした。 

(横浜局/カメラマン 鳥越佑馬)

見える人、見えない人がともに楽しむ

4月中旬。横浜市金沢区に集まった18人の参加者。
視覚障害者と目の見える人がともにスキーを楽しむ愛好家サークル「かながわブラインドスキークラブ」のメンバーです。
スキーシーズンが終わった後の交流イベントとして、昨年から釣りのツアーを開催しています。

釣り船で金沢八景の海へ

今回は視覚障害(ブラインド)のある参加者4人と目の見える参加者14人が、釣り船で金沢八景の沖合に向かい、魚を釣ります。
その名も「ブラインドフィッシング」。
参加者は、視覚障害のある人もない人も釣りのベテランから全くの初心者まで様々です。

餌を詰める視覚障害のある参加者(右)

指先の感覚でリールを巻くタイミングを見極める

釣り糸に仕掛けをつけることや魚を寄せる餌を詰めるなど、細かな作業はできるメンバーが手助けします。
しかし竿を構え、いったん釣りが始まるとそれぞれ自分であたりを見極め、釣りをしていきます。
今回狙うのは「アジ」。
アジをおびき寄せる餌をカゴに詰め、釣竿を上下に動かして拡散することでアジの群れを集めて、最後は針に食いつかせます。
仕掛けが海の底に着いたら軽くリールを巻きあげ、竿をしゃくり、誘いを入れます。

 

指を押し当てリールを巻くタイミングを見極める

仕掛けが海の底に着いたら、釣り糸が絡まないようリールを巻きあげなければいけません。
目の見える人は、釣り糸や竿の先がたわむのを見極めて、仕掛けが底に着く瞬間にリールを巻き上げます。
しかし視覚に障害がある人は、仕掛けが底に着くタイミングを見極めるのは簡単ではありません。
リールの釣り糸に指を押し当てて、釣り糸が緩む瞬間を感じていました。
 

大和市からの参加者

海釣りは初めての経験ですが、いろいろ教えてもらいながら楽しんでいます。
アジが1匹釣れましたが、魚が食いついたのを見極めるのは難しいですね。

横浜市からの参加者

見えずらいところを手伝ってもらえるので、釣りができます。
ブラインドにとって、釣りは楽しみでもあるし、戦いでもあります。
手の感覚というより、指の感覚で釣れたのが分かるんです。

25年ぶりに釣りをする参加者

西川隆之さん(37)

東京都北区から参加した会社員の西川隆之さん(37)です。 
西川さんは7歳の時、進行性の目の難病・網膜色素変性症と診断されました。
父親の仕事の関係で、中学校入学までアメリカで育った西川さん。
休みの日には、家族で自宅近くの海や湖で釣りを楽しんでいました。

日本に帰国した後、学生時代はなかなか釣りをする機会がありませんでした。
社会人になってからは、病気の進行もあり、釣りをするのは難しいと感じていました。
現在の視力は矯正視力で0.1ほどの弱視です。
視野も狭くなっていて、ソフトボールほどの範囲しか見えません。
一人では難しかった釣りですが、仲間がいることで25年ぶりに挑戦することができました。

(西川さん)
子どものころは自分が障害を持っていることを認めたくないという気持ちが強かったです。
 徐々に見えづらくなる中で、今までできたことや周りが当たり前にしていることができなくなる。
気持ちも落ち込み、受け入れるまでに時間がかかりました。 
釣りも今後難しいだろうな、と思っていたことの一つでした。
釣りをするまでに様々な準備がありますが、今回はサポートしてもらえるので、子供のころのように釣りをもう一度楽しみたいです。

ベテランがサポートで25年ぶりの釣りに挑戦

西川さんにとって小学生以来25年ぶりの釣りです。
釣り歴20年のベテラン・外山尚さん(59)が隣に座り、仕掛けやエサを付ける際のサポートや釣り方のコツを指導してくれます。

(外山さん)
仕掛けが底に着いたらリールを6回転分巻いて、アジがかかるのを待ちます。
これを2〜3回している間にしゃくりを入れて撒き餌でアジを寄せる。
群れを分散させないためにしゃくりの幅は短く速くがいいです。

竿が見えなくても指先で感じる

この釣りツアーでは自力で釣りあげることで、釣りの楽しみを味わってもらいたいというのがモットーです。
見える人が視覚に障害があるメンバーに対して、仕掛けをつける際など最低限のサポートのみ行います。
西川さんもはじめに外山さんに釣り方を教わった後は、一人で黙々と釣りをします。
子供のころの感覚を思い出しながら、ゆっくりと竿を上下にしゃくり、魚がかかるのを待ちますが、なかなかあたりは来ません。

(西川さん)
子供のころは、魚がかかった時に竿の先がしなるのが見えていたんですが、
 今は竿の先がどこにあるか分からないので難しいですね。

この日は天候もすぐれず、なかなか魚が釣れません。
西川さんは、リールの釣り糸を巻き取る部分に両手の親指を強く押し当て、魚がかかった際のわずかな反応を見極めようとしていました。

わずかなあたりを見極める西川さん

そして、釣り始めて10分ほどで指先に伝わってきた来た魚の反応。
ゆっくりとリールを巻き、西川さんは25年ぶりに魚を釣り上げました。
その後も連続して釣り上げていった西川さん。
この日、20センチほどのアジを3匹釣りあげました。
 

25年ぶりに釣れたアジ

(西川さん)
魚がかかった時は「あー来た!」ってなりましたね。
懐かしい感覚が蘇ってきて、「これが釣りや!」と思い出しました。
雨が降っていましたけど、無事釣れたので最高です。

自分で釣った魚の味は格別

釣れたアジは船宿で調理してもらいます。
刺身やアジフライなど、一緒に釣りをした仲間たちといただきました。

 

(西川さん)
自分で釣った魚は格別ですね。 
釣りにしてもスキーにしても、目が見えづらいことでできない、やりづらい部分を助けてもらえる仲間がいます。
自分一人ではできなくなったことも、仲間や支援者のサポートがあれば、再びできるようになる、やれるんだ、ということを学ぶことができました。

 

この日釣ったアジを食べる参加者

取材後記

「ブラインドフィッシング」 といっても、安全への配慮や仕掛けを付けたりするなどどうしても難しいところ以外、視覚障害者に特別なサポートを行うことはありません。
西川さんは、今回久しぶりの釣りということで、初めに手ほどきを受けましたが、リールに両親指を押し当てるなど自分で工夫をしながら釣りをしていきました。
魚を釣り上げた際には、「返し」がついている針を外すのに時間がかかってしまうこともありました。
しかし、「自力で釣り上げるからこその喜びを感じるし、必要以上に遠慮をせず、仲間として一緒に楽しむことができる」と話していました。 
障害の有無などに関わらず、同じスポーツを一緒に楽しむことは、考え方次第だと感じました。
 

  • 鳥越佑馬

    横浜局 カメラマン

    鳥越佑馬

    2011年入局 和歌山局、大阪局を経て現職 神奈川の地域に根ざした話題を 幅広く取材。

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