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神奈川県 30代女性候補者2% 横浜・川崎市議選候補者たちは

  • 2023年04月12日

今月9日に投開票が行われた神奈川県議会議員選挙と横浜、川崎、相模原市の3つの政令市の市議会議員選挙。448人が立候補し、このうち24.6%にあたる110人が女性でした。一方、出産や育児といったライフステージに重なる30代以下の年代の女性候補はわずか9人、全体の2%でした。幅広い世代の政治参画が求められる中、30代の女性候補たちがどのような選挙戦を戦ったのか取材しました。

育児も政治活動も両立する

「子育てをしてきた当事者だからこそ、私には聞ける声がある」と街頭で訴えるのは、横浜市議会議員選挙に立候補した国民民主党の新人の深作祐衣さん(30歳)です。

1歳の子どもを育てる母親で、自治体間の子育て施策の格差を痛感したことから、立候補を決意しました。

第2子の保育料、東京では無償化になってるけど横浜ではそうじゃないとか、政治の場に対してもっと子育てをしている現役世代、子育て世代の声を届けるということをやる必然性を感じています。

時間との戦い

育児と政治活動の両立は、時間との戦いでした。

去年12月に勤めていたIT企業を休職して以来、毎日、政治活動を続けてきました。

子どもが寝ている毎朝5時から3時間 街頭で挨拶

1日の始まりは午前5時。毎朝3時間、子どもが寝ている間、駅で挨拶を続けてきました。育児も政治活動も、どちらもおろそかにはしたくなかったと言います。

娘が寝てる間に少しでも活動したい。自分は子どもがいるからこそ、じゃあこの時間だけは絶対立つというのを心に決めて、朝は頑張ってます。

午前8時半にはいったん帰宅。政党職員の夫が朝ごはんを食べさせた娘と合流し、保育園に連れて行きます。少しでも子どもとの時間をつくるため、大切にしている時間です。

保育園までの15分。言葉が少しずつ出てきた娘に、朝ごはんの話をきいたり、大好きなおばけの歌を歌ったりして過ごします。

朝ごはん、なにたべたの?

おにぎり。ふわふわ

ふわふわって、たべたの?

深作さんは、「正直これくらいしか一緒にいられないので、自分のためにもすごく大事な時間です。」と言います。

葛藤も

午前10時。保育園から帰るとすぐに事務作業に取りかかります。立候補に必要な書類は、自分でそろえますが、ほとんどが受け取りも提出もデータではなく「紙」です。IT企業に勤めていた深作さんにとって、時間をとられる作業です。

データだったらもう少し時間が捻出できると思うのですが、仕方ないですね。

午後には駅に戻り、日が落ちるまで街頭で挨拶を続けます。しかし、まだ人通りの多い午後7時には、駅を後にします。夜の時間は、子どもと過ごすと決めているのです。

家に帰るとすぐに、子どもにご飯を食べさせる深作さん。SNSの反応も見込める時間帯ですが、スマホは見ずに、子どもと向き合うようにしています。

母親と候補者の両立を貫く覚悟で走り続けてきましたが、それでも、葛藤を感じるときがあると言います。

3ヶ月、丸1日子どもと過ごせた日はないですね、誰かに預けて。それは自分が挑戦すると言ったからそうなんですけど、自分が選んだ選択だからこそ、活動すると決めた時間は必死にやってるつもりです。

子どもを寝かしつけたあとは、事務作業を再開。午前1時頃まで続きます。

“24時間戦わない”選挙

一方、幼い子どもを育てながら無理しない独自のスタイルで、選挙に挑んだ候補者もいます。

「妊娠、出産、子育てをしている女性であっても、参加できる政治を作りたい。」と街頭で訴えるのは川崎市議会議員選挙に立候補した、共産党の新人の斉藤温さん(のどかさん・32歳)です。

乳幼児2人の母親として、みずから政治に参加することで、出産や子育てをしやすい地域社会を作りたいと立候補しました。

政治を目指す候補者の活動そのものが、妊娠、出産、子育てをしている女性を想定して作ったものではないと思います。そこに無理やり私が入り込むんじゃなくて、誰でも「自分も挑戦できるかも」って思えるようなものにしていきたい。

これまで、選挙といえば朝から晩まで街頭に立って活動するのが当たり前とされてきましたが、斉藤さんは、「24時間戦わない選挙」を戦います。

ジャマイカ出身の夫と協力して育児と選挙の両立を目指しますが、選挙期間中も、日中は1日3回、あわせておよそ6時間の授乳時間を設けて、必ず家に帰り、自分で授乳します。

街頭でなくSNSで

24時間戦わない選挙を支えるのはSNSです。

選挙の候補者というと、朝早くから夜遅くまで宣伝する、これが鉄則とされてきました。でも、これができる人ってかぎられていると思いませんか?(斉藤さんのSNSより)

おととし、国政選挙に挑戦した時に、朝の街頭活動をやめて、代わりにSNSで動画を配信しました。それ以来、動画配信を続けています。

今回の選挙でも、授乳のために短時間で切り上げる朝の街頭活動の代わりに、毎日動画を配信することにしました。
斉藤さんが街頭にいない間も、支援者の人がビラを配って支えます。

朝の街頭宣伝をやらなかったことで議席を落としてしまったらどうしようって、今も本当に悩みつつ、できることをやっていきたいと思っています。

開票の瞬間は家族と

開票当日、深作さんは家族とともに、結果を見守りました。

当選を知った瞬間の深作祐衣さん

9858票を得て、初めて当選しました。

全く大変じゃなかったですとは言えないような日々で、たくさん我慢させてしまったことは家族にはあるし、必ず結果を出していけるようにここから頑張っていきたい。

一方、斉藤さんも、開票の結果を、自宅で待ちました。

当選を電話で知った瞬間 「当選したってことですか、それは?」

斉藤さんも、7203票を得て、初当選しました。

川崎市議会議員に当選 斉藤温さん

これからですよね。型にはまっていくんじゃなくて、型がおかしいなと思ったらそれはやっぱりしっかり問題提起をして変えていきたいっていうふうに思ってます。

あらゆる年代の女性が、政治参加できる社会を

地方議会に詳しい東北大学の河村和徳准教授によりますと、去年、全国の有権者を対象に行った調査の結果、有権者は、女性候補に対しては、政治だけでなく、家庭や育児などさまざまな面で「完璧性」を求める傾向が強いことが分かったと言います。
 

東北大学
河村和徳准教授

母であり妻でありそして政治家であるっていうのをきちんとやってほしいっていうある種の完璧主義みたいなところが日本人にはあって、逆に男性には夫であり父であり政治家であるということはあまり問われない。そうすると女性はかなりスーパーウーマンの人でないとなかなか評価されにくくなってしまいます。制度を直すだけではなくて有権者の心の中が変わってこないと次の立候補者が続いていくのが厳しい現状があります。

議員の多様性はそのまま政策の多様性につながってきますので、有権者も、地方議会全体の多様性という視点を持って、投票する必要があると思います。

私自身も2人の子どもを育てながら働いていますが、2人の選挙戦を見つめて、子育て中の候補者が選挙で当選するためには、これほど多くの努力や工夫が必要なのかと驚かされました。政策の立案能力や自治体をチェックする力だけでなく、まずは選挙で立候補して選ばれるために、自分のことを知ってもらうための労力が、求められていることを改めて感じました。

候補者側も、SNSやインターネットなど、さまざまなツールを使ってそれぞれの主張や政策を幅広く発信できるようになりました。有権者である私たちの側も、「顔を知っているから」とか「知り合いに頼まれたから」といった理由ではなく、候補者がさまざまな形で発信する情報について調べ、きちんと知ったうえで投票する人が増えれば、選挙のやり方も変わり、幅広い年代の人たちが政治に参加しやすくなっていくのではないかと思いました。

  • 佐藤美月

    横浜放送局 記者

    佐藤美月

    2010年入局。甲府局、経理局を経て2021年7月から横浜放送局。児童福祉や教育など、子どものウェルビーイングをテーマに取材。

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