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横浜市で擁壁が崩落 擁壁防災で崩落防ぐ 危険の見分け方は?

  • 2023年03月02日

2月10日、横浜市内の住宅街で、斜面の壁が幅およそ7メートル、高さおよそ5メートルにわたって崩落しました。崩れ落ちたのは、斜面の土砂崩れなどを防ぐためにコンクリートで固められた「擁壁」。取材を進めると、崩落の恐れがある擁壁は、身近なところにもあることが分かってきました。

横浜で擁壁が崩落

崩落が起きたのは、横浜市保土ケ谷区の住宅街です。幸いけが人は出ませんでしたが、およそ3週間がたったいまも、12世帯13人に避難指示が出ています。

崩落が起きた現場

崩落したのは、斜面の土が崩れるのを防ぐための「擁壁」でした。崩落を防ぎ、私たちの安全を守るための擁壁が崩れ落ちたのです。横浜市によると、崩れ落ちた擁壁は、コンクリート製で古いものだとしていますが、崩落の詳しい原因は分からず、いまも調査中です。

保土ケ谷区の瀬戸ケ谷町で自治会長を務めている吉澤進さんは、過去にも自宅のそばで擁壁が崩れたため、大雨が降るたびに不安を感じていると言います。

保土ケ谷区瀬戸ケ谷町自治会長の吉澤進さん

本当に驚いています。うちの自治会でも数年前ですけども、同じようながけ崩れがあって、大きな擁壁が下のお宅の庭に落ちまして、だいぶ大変だったことがありました。ですから今回と全く同じようなケースですね。本当にひとごとではないなと思っています。

危険な崖は、ほかにも

住民も不安を感じていたという擁壁ですが、横浜市は、崩落のリスクがある場所をすべて把握することは困難だと言います。なぜなのでしょうか。

崩落があった現場周辺の地図です。薄茶色の部分が、家屋に被害が及ぶ恐れがあるとされる「土砂災害警戒区域」。崩落の現場は、急傾斜地が多い地域ではあるものの「土砂災害警戒区域」には指定されていませんでした。土砂災害警戒区域に指定される崖は、高さが5メートル以上あることが条件となっているため、それより小さな規模の崖はどの程度あるのかについては、全容がわかりません。

横浜市建設局企画部防災課がけ狭あい担当課長 成田充さん 

「横浜市内には土砂災害警戒区域に指定されている5メートル以上の急傾斜地が約2400区域あり、その中に崖は約9800あります。5メートル未満のがけ地もいっぱいあるので、全て把握することはちょっと不可能なのかなと思っています。」

さらに、こうした崖の多くは民有地のため、崩落の恐れがあったとしても、行政が直接対策を行うことができないと言います。

危険な擁壁から身を守る

身近にある「危険な擁壁」を見分け、身を守るにはどうすればいいのか。

地盤品質判定士会神奈川支部長の立花秀夫さん

地盤品質判定士会神奈川支部長の立花秀夫さんは、土砂災害が発生した際に行政と一緒に調査を行ったり、住民から擁壁の安全性について相談を受けつけたりしている擁壁のスペシャリストです。擁壁の災害に詳しい立花さんと一緒に、横浜の町を歩きながら教えて頂くことにしました。

【ポイント①】擁壁から生えた草木

崩落の危険を見極めるサインのひとつとして、まず教えていただいたのが、擁壁から生えた草や木です。

擁壁から草木が

草や樹木の根は擁壁の割れ目を広げる役割を持っています。そうなると当然、崩壊の原因になります。草が生えてきたら早めに摘み取って下さい。

【ポイント②】水の通り道
次にポイントに挙げたのが水の通り道。土がたまっている場合は、注意が必要だと指摘します。
 

土がたくさん出てきてしまうと、背面の土が少しずつ出てきて背面が空洞になります。そうすると擁壁が倒れる原因になります。

パイプから土 大量に流出すれば擁壁を支える土が空洞化する

水の通り道のすぐ下の壁に水の跡がはっきり残っている場合も要注意です。壁に過度な水圧がかかってしまっている可能性があるためです。

擁壁に水跡が・・・

ここに常にたくさんの水が供給されているから跡がつく。水があるのは仕方がないことですが、それを上手に排出してあげることが重要です。水の跡がこれだけついているということは、特定の箇所に集中してしまっている。

【ポイント③ガンタ積擁壁】

古いコンクリートの塊など、再利用した材料が積まれた擁壁も警戒すべき壁です。

再利用した材料が積まれた擁壁

写真の擁壁の赤い部分は、レンガだと、立花さんが指摘しました。このようにいろいろなものを組み合わせて造った擁壁は、「ガンタ積(づみ)擁壁」と呼ばれるそうです。

擁壁の表面にはレンガが・・・

当時は恐らく材料もあんまりなくて、あり合わせのもので作った。それがいまだに残ってしまっているということですね。こういう擁壁はきちんとした構造計算をして、『これなら大丈夫』っていうものではないですから。何かきっかけがあると崩れて壊れる。

【ポイント④擁壁のひび】
自宅のそばの擁壁にひびを見つけた場合には、ひびが少しずつ大きくなっていないか定点観測することが重要だと言います。スマホで写真を撮影して記録を残しておくと、異変に気づきやすくなると立花さんは言います。
 

立花さんから教えていただいた擁壁の注意ポイントを、改めてまとめました。
①擁壁から生えた草木
②水の通り道
③ガンタ積擁壁
④擁壁のひび

これらの注意点。改めて見てみると、これまで町を歩いている時になんとなく見かけたことがある光景だと思いませんか?
 

構造物には、いつか必ず寿命がきます。実際にお持ちの擁壁に変状がないか、変化していないかどうか、注視していただきたいです。もし、そこで変状があれば、行政や専門家に相談してみてください。そうすることで、その先の対応を助言することができます。

自治体の支援策は

リスクが潜む擁壁の防災を少しでも進めようと、自治体ではさまざまな支援を行っています。たとえば横浜市では、擁壁の工事を行う際に、費用の一部を助成する取り組みを続けています。大規模な工事の場合、費用の最大3分の1、補強工事の場合、費用の最大2分の1が、助成されます。

自治体ごとに独自の支援策が

横浜市はまた今年度、擁壁に関する市民向けの相談会も始めています。参加した人たちからは、「自宅の擁壁の強度はどの程度なのか」とか「工事をするためにはどうすればいいのか」といった質問が出ているということです。横浜市は4月以降(来年度)も相談会を開く方針だということで、多くの人たちに身近な「擁壁」の防災に目を向けてほしいと話しています。

私たちの生活に身近な擁壁。その安全性について、改めて確認するなど目を向けてみませんか?

  • 関口裕也

    横浜放送局 記者

    関口裕也

    2010年入局。福島局、横浜局、政治部を経て2022年8 月から2度目の横浜局勤務。横浜市政を中心に取材。

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